4話

 魔法を発動するための杖を前に構えたロベルトの姿に、盗賊達はギャハハと大きな笑い声を上げた。こんな子どもに何ができる、と。

 だがその油断は、盗賊達にとって致命的だった。

 深く吸った息を吐き出すと、ロベルトは低い声で呪文を紡ぐ。

「天の哮りよ、吹き荒ぶ風となり、地を没す雨となれ。我が敵に雷の制裁を与えよ。サンダー・ストーム!」

 朗々と響くその声が魔法を結ぶと、空は瞬く間に薄暗く染まる。どこからともなくゴロゴロと天空から音が割れ、稲光を迸らせた。

 基礎属性複合魔法、操天魔法が発動したのだ。

 操天魔法は基礎属性――つまり火、水、風、土、光、闇――のうちの複数の属性を扱う特殊な魔法だ。

 さらに複合魔法は一度発動するにも多大な魔力を消費する上級魔法の一種。これを何度も使えるような魔力キャパシティを誇る者は、超人と呼ばれるほどだ。

 それを冒険者になりたての少年が使えるということ自体、ほとんど異例に近いことなのである。

 発動した魔法はその力を盗賊達に向けて放出する準備を始めていた。まさかの事態に慌てた盗賊達はどうにか逃げようと走り出す。

 しかし……

「逃すわけないだろ。天よ、その暗き支配者を我に与えよ。我が敵を排するため、我に供せよ。クラウド・ホールド!」

 重苦しい、蛇が地を這うような音が空から降ってきた。見ると、空に浮かぶ雨雲が地上へと引き伸ばされているのだ。それはそのまま、盗賊達の腕や足、胴体を絡め取る。

 盗賊達の顔が引き攣り、助けを請おうと口を開いたその時。轟音を立てて、天の雷が振り下ろされた。

 叫び声が辺りに轟く。稲光は彼らにまとわりついて、電気でできた紐のようにパチパチとその身体を蹂躙していた。

 それは普通の魔法使いならばできるはずのない、操天魔法の二連続使用。ロベルトの魔力キャ量が異常値にあることを雄弁に物語っていた。

 地に伏した盗賊を見てロベルトはほっと息を吐く。それと同時に、呻き声を上げた。

「ぐぅ……っ! やっぱり、この状態での連続使用はしない方がいいな。かなり、体に、来る……」

 ぐったりと地面に座り込んだロベルトに、少し離れて見ていた二人が慌てて駆け寄った。

「ちょ、もう無理しすぎ! 大丈夫!?」

「普通に竜巻起こせば一発だったのに……何で二発使ったのさ?」

「力試しだ……。ああ、そいつらから金品待ってっとけよ。街で売る。一分で動けるようになるから」

「リリン、次からロベルトには負担かけないようにしよう」

「そうね。今の状態で無茶されちゃたまらないもの。戦闘禁止した方が心臓にいいわ」

「お前らな……」

 こうして、ロベルトの初の対人戦は幕を閉じた。

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