2話

 鐘が鳴るちょうど五分前に正門に着いた二人は、そこで待つ少女の姿に目を止めた。ロベルトの幼馴染み、リリンだ。

 ふわり。振り向くとともにふくれっ面を見せる。空に溶け込むような淡い水色が広がり、髪と同じ色の瞳に少し拗ねたような感情が見える。

「あ、二人とも! 遅いよ~!」

「悪いな、丘に行ってた」

「それを呼びに行ってた」

 悪いと言いつつ悪びれた様子のないロベルトと、苦笑しながら肩をすくめるルヴォルス。いつも通りの光景だった。

 待ち合わせをして、ロベルトが時間になっても現れず、ルヴォルスがそれを呼びに行き、リリンが待ち合わせ場所で待っている。三人が出会ってからずっと変わらないことの一つだ。

 軽口を叩きあっていると、一日の始まりと開門を告げる鐘が大きく鳴り響いた。出発の時間だ。

「じゃあ、誰にも見つからないうちにさっさと行くか」

「何か夜逃げでもしてるみたいだ」

「夜逃げじゃなくて冒険への第一歩だけどね」

 重く錆び付いた音を立てながら開いていく門。それが全員一緒に潜れるくらいに開いたとき、

「せーのっ」

 とん。と、三人同時に足を踏み出した。

目の前には青い空と草原がどこまでも続いていた。遥か遠くには山らしき影が霞んで見える。

 三人は振り返らずにしばらく進んで、五メートルほど離れたところで立ち止まった。そしてくるりと町の方へと向いて、叫ぶ。

「今まで!!」

「お世話に!!」

「なりました!!」

 がばっと勢いよく頭を下げる。そのままの姿勢で十数秒の間じっとしていた。だがやがて顔を上げると、自分たちが進んで行く道を見据えた。

 まず目指すのは隣町。この町は辺境とはまた違う最果てに近い場所にある町だ。隣町でも結構な距離がある。

 しかしちょっと遠いくらいで諦めるわけもない。彼らは冒険者になったのだから、これから先、とんでもない時間と距離を旅に捧げることになるのだ。

「さて、やることもやったし……街道方向に向かいましょうか」

「そうだね。まずはそこに着かなきゃ始まらない。昼までに着くかな?」

「着くだろ。街道沿いなら親父と行ったこともあるし。あとはモンスター次第だな。出なけりゃいいけど」

「冒険者にしては消極的じゃない? あ、方向は北西だよね」

「ええ。さ、行きましょ!」

 三人は連れ立って、最初の旅へと歩き出した。

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