第32話 幕間〜森の中で旅人と出会った件〜

野宿をすると決めたのは良いが、日が落ちたせいかショウは少しだけ肌寒さを感じた。

森の中から適当な枯れ枝を集めて火をおこす。

暗い森の中を炎が照らし始める、寒さも少しだけだがやわらいだ。

適当な丸太に腰掛けるとスライムちゃんを箱から出して抱きしめる。


「今日は帰れそうにないからここで朝まで過ごそう、久々に二人きりの時間だね」


スライムちゃんが体をグリグリと押し付けてくる、どうやら彼女(?)も嬉しいようだ。

森の中はまるでショウとスライムちゃん以外誰もいないように静かだ、時折火にくべた枯れ枝が弾ける音以外何も聞こえない。

ショウはスライムちゃんを抱きしめたまま空を見上げる、木の葉の間には満点の星空が広がっていた。


ショウは目を閉じてこれからのことを考える。

魔王の配下は後1体、その後は魔王を倒せば戦いは終わりだ。

スライムちゃんが呪いにかかることもなくなる、そうしたらまた二人きりで旅をしよう。

そんなことを考えていると森の中から足音が聞こえた。

ダンジョンの外に魔物はいないが、冒険者崩れの山賊はいる。

警戒したショウがカタナを構えて振りかえると、そこには長い銀髪の男が立っていた。

使い込まれていることがわかるボロボロの茶色のローブを身にまとっている、冒険者だろうか。

男は両手を上げて降伏の意を示していた、ショウがカタナを下ろすとゆっくりと近づいてくる。

炎に照らされた顔は中性的なイケメンだった、年は20代後半だろうか。


「驚かせたみたいですまないね、道に迷ってしまって困っていたんだ。どうしようかと思っていたところに明かりが見えたので、つい足を向けてしまった」


男は焚き火の近くまでくると地面に座った、敵意は全く感じられなかった。

ショウもカタナをしまい座り直す、念の為いつでも動けるように警戒だけはしておいた。


「自己紹介がまだだったね、僕はレナード。冒険者でもなく商人でもないただの旅人さ。もちろん山賊なんかじゃないよ」


レナードと名乗った男は焚き火をいじりだした、ショウはレナードの火の扱い方を見て旅人というのは嘘ではないと思った。


「旅人が護衛もつけずに一人でこんなところにいるなんて、山賊に襲われたらどうするつもりだったんだ?」


旅人は珍しくはないが、町から町への移動は大抵は冒険者のパーティーや商人と一緒に移動することが多かった。

レナードのように一人でいるのは珍しい。


「何もしないのさ。僕は武器を持っていないし持ったところで強くもない、それにお金になるようなものは持っていないからね。襲われたとしても見逃してもらえるのさ」


ショウはレナードを観察する。

背は高いが体は細かった、武器を持っていても戦うことなどできないだろう。

ボサボサの髪やローブを見てもわかるとおり、金目のものは持っていそうにない。

少しだけ安心したショウは今度はこちらの自己紹介を始めた。

スライムちゃんを箱に戻す余裕などなかったが、レナードが慌てていないところを見ると問題ないだろう。


「俺はショウ、見ての通り冒険者さ。この子は俺のパートナーのスライムちゃんだ」


ショウの自己紹介を聞いたレナードは笑っていた。

何かおかしなことを言っただろうか。


「スライムがパートナーか。僕もそうだけど君もなかなか珍しいね」


ショウにとっては当たり前になっていたが、モンスターをパートナーと呼ぶのはおかしいことなのだ。


「僕は旅をしながら面白い話を聞くのが好きでね。良かったらショウ君の話を聞かせてもらえないかな?もちろん嫌ならすぐにでも立ち去るけど」


ショウは少しだけ考えたが、特にやることもないし話をすることにした。

もちろんショウやスライムちゃんの呪いのこと、魔王との戦いのことなどは話さなかった。

レナードはショウの話を楽しそうに聞いていた、ショウも不思議とレナードに対しては警戒することなく話すことができた。


「いやー面白かったよ、遅くまで付き合わせて悪かったね。迷惑じゃなければ僕もここで寝ていいかな?火の番と見張りぐらいならできると思うけど」


すっかり話し込んでしまった、すでに深夜だろう。

ショウは特に断る理由もないのでお願いすることにした。


「じゃあお願いしようかな、何かあったら大声出してくれたら起きるよ」


ショウはスライムちゃんを抱えてテントに入ると、すぐに眠りについた。


翌朝

ショウは起きてスライムちゃんのステータスを確認する、呪いにかかっていないようで一安心だ。

スライムちゃんを箱に戻し外へ出ると、レナードはもう起きていたようだ。

地面に寝たような後がなかったので、もしかしたら徹夜したのかもしれない。


「おはようショウ君、よく眠れたかい?」


そういえばいつもより眠りが深かった気がする、レナードが見張ってくれていることで安心したのだろうか。


「おはよう。おかげさまでよく寝れたよ、じゃあテントを片付けたら出発しようか。街道まで一緒に行くよ、また迷われても困るしね」


ショウがテントを片付ける間にレナードは火の始末をしてくれていた。

二人は他愛のない話をしながら森の中を歩いた、しばらくすると街道へ出た。

レナードの目的地は城と反対方向だったので、ここで別れることにした。


「ありがとう、ここまでくれば迷わずにすみそうだよ。色々と楽しい話が聞けてよかった」


レナードがショウに手を差し出してくる、どうやら握手を求めているようだ。


「こちらこそ、楽しかったよ。また会えると良いね」


ショウはレナードと握手をかわし歩き出す、少しして振り返るとレナードが手を振っているのが見えた。

ショウはレナードに手を振り返すと、城を目指し全速力で走りだすのだった。



レナードは遠くなるショウの背中を見ながら手を振っていた。

ショウが走り出したあと、彼の表情が冷酷なものへと変わった。


「あれが最強の人間か、道理で彼らが勝てない訳だ」


レナードは昨夜ショウと出会ったときのことを思い出す。

カタナを抜いて振り返ったときに一瞬だけだが彼の能力を垣間見ることができた。

恐らく全ての能力が最高に近い数字だろう、あれに勝てる存在などいるのだろうか。


「もう二度と会わないことを祈っておくよ」


そう言うとレナードは街道を歩き始めるのだった。

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