第15話 レベル67のダンジョン~聖女に助けられた件~

レベル67のダンジョンのある町に着いた。

早速ギルドで情報を集めることにしよう。


「そんなことあるか・・・」


ショウはギルドの外でため息を吐いた。

このダンジョンで出るモンスターはゴースト系。

高位の神官に魔法を付与してもらった武器か、特殊な武器でなければ一切効かないらしい。

ショウは魔法を使えない、味方に神官もいない。

どうしたものかと頭を抱えていると、声をかけられた。


「やっと見つけましたわ、勇者様」


この声・・・嫌な予感を顔を上げる。

そこには自称聖女の冒険者がいた。

引き離したはずなのに、どうして追いつけたのだろう。


「二日間寝ずに追い続けた甲斐がありました。ささ勇者様、呪いを解いて差し上げます」


なるほど、そういうことか。

確かに髪はボサボサで服も汚れている、目も真っ赤だ。

この町のダンジョンは攻略できないし、自称聖女にも追いつかれてしまった。

さっさと逃げ出してしまおうか、そう思ったその時。


「聖女・・・神官・・・」


ショウの脳裏に名案が思い浮かぶ。

魔法を唱え始めた聖女の口を手で塞ぎ、顔を赤くしている聖女にある提案をする。


「なぁ聖女様、武器に魔法を付与とかできるか?」


彼女が噂の聖女ならば奇跡と呼べるほどの魔法を使うことができるはずだ。

武器に魔法を付与することぐらい簡単だろう。


「魔法付与ですか?はい、得意ではありませんが・・・」


ショウは初めて彼女が聖女に見えた。


「じゃあお願いしてもいいかな?このダンジョンのモンスターには普通の武器が通じないらしくてな」


ショウはカタナを抜くと彼女に手わたす。

彼女はカタナを受け取ると目を見開き驚いているようだった。


「これは金剛石でできていますね。この素材であれば一時的ではなく永久に付与できると思います」


永久に付与だって?このダンジョンを攻略できればよかったのだがそれができるならうれしい誤算だ。

彼女はカタナを地面に突き立てると、魔法を唱え始めた。

彼女の持つ杖の先から放たれた光がカタナを覆う。

しばらくすると光が消えた、見た目に変化はないが成功したのだろうか。


「終わりました。これでゴーストにも効くはずです」


そう説明する彼女の体はふらふらと揺れていた。

ショウは倒れそうになった彼女を支える。


「ありがとう、これでダンジョンに挑めるよ」


彼女はショウに優しく微笑むと、気を失ってしまったようだ。

2日間寝ずに魔法を使ったので限界を迎えたのだろう。

ショウは彼女を宿に預けると、ダンジョンへ向かった。


準備に時間がかかったが、ようやくダンジョンへ入ることができた。

奥へ進んでいると早速ゴーストと遭遇した。

人の骨のようなシルエットだが下半身は煙のようになっていた。

頭には布のようなものをマントのように羽織っていた。

よく見ると向こう側が透けて見える、実体がないというのは本当のようだ。


「すごいな、どうなってるんだ?」


試しに石を投げてみた。

石はゴーストをすり抜けて床へ落ちる、ショウに気づいたのかゴーストがこちらへ近づいてきた。

ゴーストがショウに纏わりついてきた、何をしているのだろう。

痛みもないし苦しくもない、これが攻撃なのだろうか?

ショウはカタナを抜きゴーストを斬り払う。

何の抵抗もなく両断されたゴーストはそのまま消えてしまった。


「死んだのか?それすらわからないな」


ステータスを見るとどうやら体力を吸われていたようだ、だがたいしたダメージではない。

動きものろいし物理的な攻撃もしてこない、武器さえあれば攻略は簡単だった。

近づいてきたところをカタナで切り捨てる、簡単な作業だった。


さらに奥へ進むと、紫色のゴーストが現れた。

同じように待ち構えていたが、近づいてこない。

ショウが不思議に思っていると、骨だけの腕を広げショウに向けて振りかぶった。

立っているショウの体に衝撃が走る、この感覚間違いない。

前のダンジョンで受けた真空刃だ。


「お前らも使えるのか」


ショウはお返しとばかりに真空刃を撃ち返す。

魔法のおかげだろうか、真空刃でも問題なく倒すことができた。


最深部へ着くとボスを探す。

他の場所に比べ天井が高い、警戒しながら奥へ進む。


「こいつがボスか」


今までのゴーストの5倍以上はある巨大なゴースト、ボスで間違いないだろう。

ショウに気づいたボスが腕を広げこちらに振りかぶる。

ショウが立っていた地面に大きな穴が開いた、普通のゴーストとは威力が桁違いだ。

ショウはボスめがけて真空刃を何度も放ち、ボスの体を切り裂いていく。

だがあまり効果はないようだ、すぐに傷は塞がってしまう。


「なら直接斬るしかないか」


ショウは飛び上がり、ボスの腕めがけてカタナをふるう。

腕は地面に落ちる前に消えてしまった、直接の攻撃は有効なようだ。

そうと分かれば話は早い、残る腕を切り落とそうと飛び上がったその時。

ショウの体がボスの中に取り込まれた。

痛みはないがステータスを見ると凄い勢いで体力が減っていた。

このままではまずい、ショウは懸命にカタナを振り回す。

ボスが死ぬのが先か、ショウが倒れるのが先か体力の勝負になった。

勝敗は決した、ボスの体が灰になって消える。

地面に投げ出されたショウは倒れたまま荒れた呼吸を整える


「体力を失いすぎたな、スライムちゃんで回復するか」


体力も無いし、周りに人の気配もない。

大丈夫と判断したショウはスライムちゃんを箱から出した。

スライムちゃんを優しく抱きしめる。

レベルが下がるにつれ、体力も戻ってきた。

十分動けるようになったのでスライムちゃんを箱へ戻す。


帰り道でも何度か襲われたが、ただのゴーストなど最早ショウの敵ではなかった。

ダンジョンの外へ出ると、聖女が待ち構えていた。


「お待ちしていました勇者様、さぁ呪いを解きましょう」


魔法を唱える彼女の口を手でふさぐ。

出会う度に呪いを解こうとするのはやめてもらいたい・・・

だが今回は彼女のおかげで助かったのは事実だ、素直にお礼を言うとしよう。


「ありがとう聖女様、おかげでゴーストも倒せるようになったよ」


彼女は恍惚の表情でショウを見つめていた。

ショウが手を離すと抑えられていた口元を指でなぞっている。


「お役に立てたのなら良かったです。では呪いのほうもお任せください」


彼女がまた魔法を唱え始めたので慌てて口をふさぐ。

100%の善意でやっているので、無下にするわけにもいかなかった。


「気持ちはうれしいけど、この呪いは解かなくていいよ。俺の強さの源なんだ」


こんな言葉で彼女が引き下がるとは思わないが、念のため言ってみた。


「遠慮なさらないで勇者様。その程度の呪い私がすぐに解いて差し上げます」


やはりだめだったか、仕方がないここは全力で逃げるとしよう。


「遠慮じゃなくて本当に大丈夫だから!魔法の付与ありがとう、じゃあね!」


ショウは彼女にお礼を言うと全力で逃げだした。

ショウにとって聖女はどんなモンスターよりも恐ろしかった。

万が一にでも呪いを解かれてしまってたまらない。


彼女を引き離すべく、一旦前の町に戻ることにしよう。

レベル62のダンジョンがある町を目指し、走り出すのだった。

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