第12話 レベル58のダンジョン~変な女と出会った件~

レベル58のダンジョンがある町へ着いた。

いつものようにギルドへ向かうと何やら騒がしい。

ギルドの人と冒険者から、モンスターの情報と一緒に面白い話を聞くことができた。


「聖女様?」


どうやらこの町に聖女と呼ばれている冒険者が来ているらしい。

何でもその聖女は高レベルの冒険者だが、困っている人を無償で助けているようだ。

助けられた人がお礼を申し出ても受け取らず、奇跡と呼ばれるほど高位の魔法を使えるらしい。

その麗しい見た目と清らかな行いから、いつからか聖女と呼ぶ人々が現れた。


「俺には関係のない話だな」


ショウはこの時はそう思っていた。



情報は入ったし早速ダンジョンに向かおう。

このダンジョンで出現するのは鎧よりも硬い鱗を身に着けたモンスターだ。

体を綺麗に丸めて、転がりながら突進してくるらしい。

その突進は強烈で、高レベルの冒険者でさえ受け止めるのは難しいということだ。

冒険者からはアルマジロと呼ばれている。


ダンジョンに入ってすぐ、何やらショウの方に転がってくるものがあった。

大きさはショウと同じぐらいで、鉄のような銀色の鱗で全身を覆われた球体だった。

土煙を上げながらかなりの速度で転がってくるそれを、ショウは片手で受け止める。


「これがアルマジロか?」


ショウが観察していると、突如弾けるように球体が開いた。

4足歩行のモンスターへと姿を変える、どうやら当たりのようだ。

アルマジロは飛び上がると、体を丸めてショウの上へ落ちてくる。

ショウは上から落ちてくる球体にタイミングを合わせ拳を叩きつける。

内側から弾けるように灰となって消えてしまった。


「久々に力を試してみたけど、やっぱ化物だな」


この状態が続けばいいのだが、倒せば倒すほど弱くなるショウではそれは叶わない。

弱くなったときのことを考えて、真面目に戦うことにしよう。


転がってくるアルマジロを今度はカタナで斬っていく。

転がる速度は早いが、前回のペンギンほどではない。

カタナの切れ味と練習の甲斐もあってか、簡単に両断することができた。

ドロップアイテム[硬い鱗]を何枚か入手できた。


もし鱗を斬れなくなった場合のことを考えて色々と試してみた。

一番効果的だったのは、鱗の無いお腹の部分を狙うことだった。

転がってくるのを避けた後、確認するためか少しだけ球体を開くのだ。

その隙間にカタナを差し込むと、驚くほど簡単に倒すことができた。

どうやら内側は相当柔らかいようだ。


だいぶ倒してしまったのでレベルもかなり上がったようだ。

最深部へついた時はレベルマイナス732になっていた。


「やっぱりレベルが上がるのが早すぎるな、どうにかしないと・・・」


そんなことを考えていると、女性の悲鳴が聞こえてきた。

悲鳴が聞こえた方へ向かうと、トゲのついた巨大な球体が神官らしき女性を追っていた。

あれはおそらくボスだろう、逃げているのは冒険者と行ったところか。

周りに仲間がいないところを見ると、どうやら彼女以外やられてしまったようだ。


「そこのあなた!お逃げください!」


女性がショウに向かって叫ぶ、どうやらボスと戦う気はもう無いようだ。

助けても文句は言わないだろう、ショウはボスと戦うことにした。


こちらへ転がってくる球体めがけて走り出し、トゲに気をつけながら飛び蹴りを食らわす。

遠くへ飛んでいく球体を眺めながら神官の女に声をかける、女は何が起きたか分からず固まっていた。


「俺が相手をするからあんたは逃げな、一人でも地上に行くぐらいはできるだろう?」


神官が頷いたのを確認すると、ショウは飛んでいったボスを追いかけた。


ボスは壁に大きな穴を開けて止まっていた。

トゲは見るからに尖そうで、球体の大きさはショウの倍はあった。

ボスは少しだけ隙間を開けてこちらを見ていた、どうやらショウに気づいたようだ。


「結構本気で蹴ったんだけど死なないか、やっぱレベルが上がると厳しいな」


実際のところボスの突進を止められる冒険者などいないのだが、ショウがそんなことを知るわけがなかった。

再び転がりだしたボスを、ショウはトゲに気をつけながら今度はカタナを振るう。

だが斬ることができず、ボスの突進を止めただけで終わった。

ショウはボスが動き出すよりも早く、その鱗めがけてカタナを思い切り突き刺した。

どうやら貫通できたようだ、鱗には穴が空き血が流れていた。


「倒すまでにはならないか」


傷つけることはできたが、致命傷にはならない。

カタナを引き抜き、距離を取る。

どうやらお腹を狙うしか倒す方法はなさそうだ。

再び転がってくるボスを両手で受け止める。

止まったボスの体の隙間めがけてカタナを差し込み、無理やりこじ開ける。

驚いているボスの首めがけてカタナを振るうと、灰となって消えてしまった。

レアドロップ[銀色のトゲ]を手に入れた。


アイテムを回収して戻っていると、先程別れたところに神官の女が立っていた。


「あんた逃げたんじゃなかったのか?」


ショウが尋ねると、彼女は突然泣き出した。

神に祈りを捧げるようにその大きな胸の前で両手を組み、膝をついている。


「救って下さりありがとうございます!どうかお名前を教えてください!」


大げさな人だなと思ったが隠すことでもないので教えることにした。

彼女は何度もショウの名前をつぶやいている。


「ショウ様!改めて命を救って下さりありがとうございます。私にできることがあればなんなりと」


ショウが彼女の言葉を手で遮る。そのやり取りはもう結構だ。

それよりも様付はやめてほしい・・・


「気にしなくていいよ。それよりあんたは上に戻るんだろ?一緒に来るか?」


彼女は頷くと、ショウの後についてきた。

二人で一緒に出口へ向かう。


外へ出ると、神官の女がいきなりショウの手を握ってきた。

真剣な瞳でショウの顔を見つめてくる。

明るい外に出てわかったが、かなりの美女だ。

桃色の肩まで伸びた髪からは、なんとも言えない良い香りが漂っている。

手足も長く、肌も雪のように真っ白だった。


「ショウ様は呪いにかかっていらっしゃいますね」


急にこんなことを言われて驚いた、呪いのことがバレたのだろうか?


「何のことかわからないな」


ショウは動揺がバレないように優しく手を離し、ギルドへ向かおうとしたが再び手を握られた。


「隠さなくてもよろしいですわ。この程度の呪い私が解いて差し上げます」


神官の女はショウの返事も聞かず魔法を詠唱しだした。

慌てて彼女の口を手で塞ぐ。

お礼で呪いを解かれてしまってはたまったものではない。


「これは俺の問題だ、放っておいてくれ」


どうやら彼女は確信を持っているようだ。

誤魔化すのは無理そうだったので、なんとか立ち去ろう。

彼女の顔が赤くなっていた、力を入れすぎただろうか。


「そういうわけで、じゃあな」


彼女の口から手を離すと、逃げるようにギルドへ向かった。



ショウが立ち去った後、女は抑えられていた口元を指でなぞっていた。

顔が火照っている、恐らく赤くなっているだろう。


「呪いぐらいいくらでも解いて差し上げますのに、命を救っていただいた私のすべてはあなた様のものですわ」


いつもは頼られている自分が、今日は命を救われた。

しかも恩人は自分と同じように何の見返りも求めなかった。

女はショウに一生尽くすつもりでいたのに。


『私が聖女とよばれるのであれば、私を救ってくださったショウ様は勇者と呼ばれるべきですわ。でも勇者様が呪いにかかっているのは大変ですわね。私が解いて差し上げないと』


そんなことを考えていると後ろから声をかけられた。

どうやら傷ついた冒険者を治療して欲しいようだ。

聖女はショウの呪いを解くために後を追うことを誓った後、治療へ向かうのだった。


ショウは宿屋へ着くと早速スライムちゃんを抱きしめる。


「今日は変な神官にあってさ、大変だったよ」


スライムちゃんはいつも黙って俺の話を聞いてくれる、本当に最高のパートナーだ。

いつかお喋りできたらいいなぁ、そんなことを思いながら眠りについた。


翌日

ショウのレベルはマイナス999、スライムちゃんのステータスも問題なかった。

次はレベル60のダンジョンがある町を目指すことにした。

町の入り口に昨日見かけた美女が立っていた、彼女も出発するのだろうか?


「ショウ様!呪いを解くのは私にお任せください!」


彼女はショウが通りがかると魔法の詠唱を始めた、嫌な予感しかしない。

ショウは全速力で走り出した、詠唱が聞こえなくなるとほっと胸をなでおろす。


「まさかあのままついてくる気じゃないだろうな?」


追いつかれないように急ぐか、馬車での移動ならもう2度と会うこともないだろう。

何とも言えない不安を抱きながら、ショウは次の町へ向かうのだった。

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