第5話魔王対神
《お前は魔王になれるのか?》
その声は村人Xの脳内に直接響いた。
「魔王?俺は神だぞ。神以外の何物でもない。ましてや魔王なんてそんな神の反対の存在になるなんてありえない。」
だが魔王は微笑んでいた。
「ならお前のその頭のツノはなんだ?ツノが生えている生き物は獣...もしくは魔族だ。お前はツノとさらに羽も生えている。お前は魔族の王。魔王に変化し始めているんだよ。」
「?!なぜだ?俺は神のはず...なのになぜ?まさか...!あの時お前が言っていた魔王を倒したものが次の魔王だ。とはこういう事だったのか...!」
村人Xは青ざめた。だがもう遅かった。
「村人X?お前...なんで魔王になってるんだ...。いや、魔王になったではなく魔王だったが俺らに神だと信じ込ませ村を安全だと思わせて襲ったのか?そうだろ?お前は信じてたのに...」
《ゆるさない!》
村人Xの脳内はもうごちゃごちゃだった。俺が襲った訳でもないのに襲ったと偽りの情報に塗り替えられ、もしかしたらミコにも裏切られていたのではないかという絶望感で...
その時、村人Xの脳内には何者かからの声が届いていた。
《お前は裏切られていたんだよ》
その後、村人Xは記憶を失った。
しばらくして目が覚めた村人Xは見知らぬ天井に戸惑った。
白い天井だった。
「どこだ?ここ」
その一言を発した瞬間に走ってきたのはミコだった。
「大丈夫ですか?ツノと翼は魔法で除去出来ましたが、心まではまだ分かりません。まだ魔族の記憶があったらまだ寝ていた方がよろしいかと」
村人Xは頭を触ってみた。
するとツノは生えていなかった。それに背中にも翼は無かったし、俺の心は平常に保たれていた。
「ミコの事は憶えているし心は大丈夫だと思うけど、何日くらい寝てたんだ?俺」
するとミコは暗い顔をしたが、話をし出した。
「あなたが眠っていたのはおよそ300年前からです。」
(そんなに寝てたのか...)
「でも、眠っていたというよりあなたの神様としての記憶だけが眠っていたという表現の方がよろしいかと思われます。」
「どういう事だ?俺はただ寝ていただけじゃないのか?」
「実を言うとあなたの体は私が行った時には魔王化していました。その魔王化を止めようとしましたが新たな魔王の誕生を魔族が喜び迎えに来たため私一人では止める事が出来ず魔王化したあなたを連れもどせませんでした。あなたは魔王としての素質もあったようで、3つの国を滅ぼしました。そして4つ目の国に狙いを定めたあなたの事をたまたま噂で聞き、その国に私は出向き魔王討伐隊を結成しました。そして多くの犠牲を出しましたがついに魔王を討伐する事が出来たのです。その時には魔王ではなくあなたの姿に戻っていましたがツノと翼は残っていました。その状態ではまだ魔王としての心も持ち合わせているため私たち女神で力を合わせて浄化をしました。すると、ツノと翼は消えて無くなりました。ですが、魔族というのは倒したものがまた魔族になるという特性を持っているためあなたが討伐された後あなたにとどめを刺した人間が魔王化してしまいました。」
村人Xは驚愕して、受け入れられない自分の事を無理やり受け入れた。
「本当にすまなかった...何も知らずに俺はこうしてのうのうと生きている。俺のような、人間の犠牲をだしたものが生きていていいのか?普通ならそのような人間は処刑されるのが普通だが何故俺は生きていられるんだ?」
思い詰めている村人Xにミコは優しく寄り添った。
「あなたの犯した罪はあなた自身は知りません。何故なら私たちが浄化しましたから。なのでもう魔王としてのあなたは処刑済みです。これからは神様として生きていていいのです。あなたが神様になる前のあなたの過去は確かに辛いものだった。そしてその過去に覆い被さるように魔族からの言葉で覚醒してしまった魔王の心。そんなものもうありません。もう一人ではないのですよ?だから一緒に生きましょう?一緒に生きる証としてあなたに名前を差し上げます。名前を差し上げてからは神様としてずっと世界を見守ってください。それが使命なのです。」
そう言うと村人Xからは自然と涙が出てきた。
そしてミコから名前が与えられると聞きものすごくワクワクもしていた。何故ワクワクしていたのか。それは神様になる前に遡ります。
村人Xはある小さな村に産まれました。
その村では名前をつけられるほどの能力を持つものがおらず、仮の名で他人を呼びあっていました。
仮の名をつける人間はその村の長であるタゴンでした。
タゴンは村人Xの家族を毛嫌いしており産まれたばかりの村人Xの事を殴ったり家族のための食料も奪ったりと散々でした。
そして村人Xが泣くと悪魔の囁きと言われ、笑顔を見せるとすぐに殴って笑わせなくしました。
村人Xという仮の名は村人の中でもハグレという意味が込められていました。
その仮の名がついてからも嫌がらせが続きついには家族にも見放され家族からも虐待を受けるようになりました。
何度も命を絶とうと試みましたが結局死ぬ事は出来ず、そのまま職業転生の日が来ました。
そこで会ったノエモンとクノイチリーダーと話をしてすぐに神様との戦いをして、と中々展開が早く心が脆くなってしまっている中で魔族からの言葉からかなり効きました。
それが原動力となり魔王となりました。
魔王になってからは同じ魔族でも気に入らないものは殴ったり嫌がらせをしたりと過去に自分に受けた事をそっくりそのままやりました。
それを滅ぼした国の生き残りにもやり、そしてかなり楽しくなっていました。
ですが、ついにその日々も終焉を迎えそしてその負の心は潰えて終わりました。
これが村人Xの過去です。
この過去は消す事は出来ませんがこれからそのような扱いを受ける人々を助ける事はできる。
そう信じて村に戻る決意に至りました。
もちろんミコも連れて...
「どうしたのですか?早く儀式に行きましょう!」
どうやら名前を付ける人はミコではなく別の人らしい。別の人って誰なのだろうか。
出来たらいい名前がいいのだけど。
「こんにちは!神様の名前をつけさせていただくケイトと申します!私は神様と同じ村にいたそうなのですが記憶に無くて...しかしこれも何かの縁ですのでこれからもどうぞよろしくお願いします!」
「よろしく!早速名前をつけて欲しいんだけど候補はあるの?」
するとケイトは村人Xの名前の候補を言い出した。
「三つあります!まず一つ目はゼイル、二つ目はカイン、三つ目はギルムです!」
(どれもカッコイイなぁ!)
「ですが、個人的にもうひとつ考えてみました!それは、シノブです!」
(うーん、なんか君の方がしっくりきそうな名前だぞ?)
「俺個人的には二つ目のカインが良いんだけどどうかな?」
村人Xは悩んだ挙句その答えを出した。
するとケイトとミコは二人揃って
「いいと思います!」
と言った。
そして、儀式が始まった。
儀式と言っても変える名前を呼んで詠唱を唱えるだけだ。
「それでは始めます。」
《神に導きしものたちよ、その神にカインという名を与えよ。》
そう唱えると村人Xという名前に上書きされるようにカインという名前が書き記された。
「お疲れさまでした!完了です!」
ミコはホッとしたのかカインに抱きついた。
そして、落ち着いたところでミコが言葉をかけた。
「本当に名前をもらえてよかったですね!これからよろしくです!カイン様!」
ミコに名前を呼んでもらえて新鮮だったがそれ以上にちゃんと儀式が成功してよかったと思った。
「ミコ、カイン様ではなくカインでいいぞ。様が付いているとやりづらいからな!」
そう言うとミコは微笑みを浮かべて
「はい!カインよろしく!」
と言った。
続く
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