気仙沼時代6 2014年07月25日(金)

 私はTシャツを作るに当たって、自分のブランドを立ち上げることを夢見ていた。


 山本文緒さんがエッセイの中で、作家になるに当たって私が一番最初に考えたことはペンネームを考えることだった。って書いてあったのを思い出して、私もデザイナーになるにあたって最初に考えたのはロゴマークを考えることだったんだ。



 これは岩手の河原を散歩してた頃に閃(ひらめ)いたアイディアだった。


 それを実際形にして特許庁に商標登録の請願書(せいがんしょ)まで書いた。


 結果登録料を払わなきゃならなかったが日本に置いて、被服分野では私しか使えないマークになった。


 だから私は自分のマークを今でも持っているのである。



 そして、岩手で働いてて気づかされた事をyohji yamamoto宛てに書いた。


 その頃、Nike(ナイキ)がカラーコーディネーションをオリジナルにできるサイトを見ていて、ファッションも(服も)こんなふうに出来てるデザインから色を自由に選択できたり、自分の体型に合わせたものになったり、気になる丈の長さを調節できたり、ということをサイト上で出来て注文服のように工場に発注できたら良いんじゃないかってことだ。


 昔の仕立て屋さんが担(にな)ってたことを今は工場が担(にな)うべきじゃないかと、繊維業界の工場経営が傾(かたむ)く中、工場の仕事が増えればいいのにと思っていたアイディアだった。



 そして次にcomme des garçons宛てに服の夢を語った。


 当時出来ていた有機ELという薄い素材に目を付けていた私は、それで服を作って、服の柄や色が切り替わる服が作れないかという打診だった。


 理系の詳しい人に聞いたら、厚さ1mmって言っても繊維じゃなくて板状の物だからな、と注意を受けた。


 でも有機ELを作った本人の山形大の教授に手紙を書いたら、なるほど繊維の段階まで作れれば応用範囲が広がります、とお返事を頂き、さらに繊維が発光する衣服と言うのは理論上可能だと思います、ですが技術的にまだ実現はできません。という回答だった。


 私は単に厚さ1mmのテレビ画面が作れるなら同じように衣服を作れば、綺麗な映像を流すことも、タータンチェックからブロックチェックにすることも、青から赤に変色させることも、カラーコーディネーションについては自由自在になる、ましてやそれが大胆にも時間と共に変化する衣服が作りたい、と大学生時代から思っていたのだ。


 そんなことが理論上できるのかはわからない。理論上無理だという結末も待っていると思う。


 けれども服飾業界に飛び込んだ若者が未来を切り拓くようなデザインを考えたということで、一つ画期的な提案になると当時の自分は考えていた。


 実際に作れたら、画期的な服になることは間違いないし、今度は服だけでなくて、服に流す色をコンピュータでデザインして、まるで音楽を配信するように、衣服の色を配信するようになるのだ。


 だからアップルコンピュータとも組まないといけないし、携帯会社とのコラボレーションも必要だった。


 そんなこと一人でできるわけはないから、comme des garçons宛てに手紙を書いてみることしか私にはできなかった。


 だからじゃないが、「comme des garçonsもホームページをそろそろ持ったらいいんじゃないですか?」とも提案してみた。注:手紙にこんな気軽に書いたわけではありません…


 するとどうだろう、手紙がすぐに返って来た。弊社ではそのようなデザインは取り扱いません。


 というものだった。けれどどうだろう。その後comme des garçonsはホームページを立ち上げるのだ。


 私はcomme des garçonsに意見を言って、comme des garçonsが意見を聞いてくれたみたいで、凄く嬉しかったのである。


 yohji yamamotoの方からは何も返事はなかったが4月1日のエイプリルフールにコレクションが開かれて、東京コレクションを盛り上げて行くという宣言をプレゼンテーションし、そのつい一年後か、二年後あたりにメルセデスファッションウィークになった。


 そして引退をする山本耀司さんがインタビューに答えてる雑誌を見てこれからの物作りについて、私が提案したことと似たようなことを語っていて、これからはそういうのが増えるだろうと、一応返答してくれてたんだと、何年も後(あと)になってから知る。


 カリスマとか有名人とかって言うけど、そういう人の凄い所はファンを裏切らないという所だ。


 私は伝わってはいたんだ、と思って泣きそうなくらい、嬉しくなった。


 注:山本耀司さんは結局事業再生のためデザイナーを今も続けられているようです。引退記事を読んで感動しただけでインテグラルという物流会社がスポンサーになり里美さんの夫(元美容師)の社長が不採算事業を削り、海外から新社長を招いてつい先日事業再生を果たしました。おめでとうございます。2017年3月に追記



 そしてユニクロ宛てにも提案した。


 ユニクロはあらゆるアパレルの中でもファストファッションでマスファッションなのだから、イメージアップと無個性という均質性に拘(こだわ)って仕事をするべきだと説いた。


 ユニクロはダサいという、ファッショナブルな人たちの意見を覆(くつがえ)すようになって欲しいと意見したのだ。


 そうなるにはパターンとサイズと色彩を徹底的に時代と人に合った物を提供するべきだと主張した。


 パターンに置いては大学で習ってたアミコファッションズ(鯨岡阿美子さん創設)や、FIT(Fashion Institute of Technology)を参考にして欲しいと書いた。


 色彩について、私個人は服同士の色合いの善し悪しは分かる。


 ただ、肌の色にあった服かどうかまでは色彩感覚が無い。


 そして多分、ほとんどの人はそれが分からなくて服を選んでるから、そういうアドバイスをできる店員を置くというより肌をチェックすれば似合う色がカラーパレットになって提案できるような機械を導入したらどうか?と提案したのだ。


 日本の色彩財団にも同じ話を電話でしてみた。そのことを書いたんだ。


 そしてどんな肌の人にも似合うようにカラートレンドを踏まえて、カラー展開すべきなのだと説いた。


 簡単に言えばi-Phoneアプリで肌の写真を撮るとgood color, bad colorといった色見本が現れるようなアプリを開発するのだ。


 でも写真だと光のあたり具合で正確に肌の色が読み取れないだろうから、私は体温計のような機械をイメージして言ってみた。これも中々のアイディアだと思っていた。



 これでも駄目かと最後にはissey miyake宛てにも手紙を書く。


 だがこの手紙は少々違うものになった。というのも私は手紙を書いてみようというよりは、書かなくちゃいけないという使命感を持って書いたものになったからだ。


 それは独りよがりな思い込みがそうさせたのかもしれない。



 服についてはこういうものだった。カーボンナノチューブで新しい軍服を作って欲しいという請願(せいがん)だった。


 カーボンナノチューブというのは、アルミニウムの半分という軽さ、鋼鉄の20倍の強度(特に繊維方向の引っ張り強度ではダイヤモンドすら凌駕する)と非常にしなやかな弾性力を持つため、将来軌道エレベータ(宇宙エレベータ)を建造するときにロープの素材に使うことができるのではないかと期待されている。


 とwikipediaには載っているが、とにかく細くて軽くて強いのだ。


 シャープペンシルの芯一本分の糸で、今動いてるエレベーターを支えられるっていうんだから驚きだ。


 私は何でも服にしたかった。新しい服飾史が塗り替えられるようなデザインをしたいと思っていた。


 だからなんでも服に結びつけて考えていたんだ。


 新しい強度の素材なら銃弾が当たっても無傷でいられるような軍服をこの素材を使って作れないかと相談した。


 なぜissey miyakeだったかって言われれば、issey miyakeはそれまでにも軍服とのコラボレーションを服として取り扱っていたからだ。


 本当に作れるなら、警察の制服も軍隊の制服も世界中でリニューアルするだろう。世界中で必要になる。継続的に必要になる。凄い枚数作る。


 大量の仕事が生まれるんだ。銃で打たれて死んで行く人なんてもう見たくなかった。


 だから私はアイディアだけでデザインではないが打診(だしん)してみたんだ。



 全部夢物語な未来的な発想である。


 絵を描くのが上手(うま)かったわけでも特にセンスが良かったわけでもない私は、それでも洋服の未来についてこんな夢を持っていた。


 でも一人で考えていてもどうしようもなかったんだ。だから好きなブランドに相談した。


 何もしてないわけじゃなかったんだ。ちゃんとした夢があったんだ。そしてそれを伝えもした。


 けど、それで終わりじゃなかった。私は手紙に余計な事まで書いたんだ。


 でもその話はまだできない。その前に書く事がまだある。


 手紙についてはここで一旦保留としよう。

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