エレギオン帰国
心身ともにズタボロ状態のコトリはエレギオンに帰国したら寝付いてしまったの。食事も喉を通らなかったし、頭の中にはゲラスでの惨敗の記憶がグルグルまわるだけだったわ。どうして生き残ってしまったんだろう、どうしてあそこで死ななかったのかって、そればっかり考えてた。
半月ほどしてユッキーが来た。コトリの部屋は面会謝絶にしてたんだけど、ユッキーは構わず入って来た。
「あらコトリ、やつれちゃって。そんな顔してたら男に嫌われるよ」
「ユッキー、ごめん。イッサは、イッサは・・・」
「リュースはコトリの男であることの証を立派に立てたよ」
「でも、でも・・・」
「コトリはこれが好きだよね。さあ、食べて」
「いらない」
ユッキーが差し出したお菓子を投げ捨てちゃった。そしたらね、ユッキーは床に落ちたお菓子を拾うの。全部拾ったら、
「美味しいのに。でも、床に落ちちゃったからわたしが食べるわ。じゃあ、こっちはいかが」
「いらないったら、放っといてよ。面会謝絶の札が読めないの」
「読めないよ。だってわたしは首座の女神だから」
ふとユッキーの顔を見ると目に涙が溢れてた。
「一人じゃ支えきれないの。コトリがゲラスでいっぱいの物を背負わされたのは知ってる。でも背負わなければならないのが、わたしとコトリなの。もうコトリが背負うのがイヤならわたしも終わりにする。でもね、まだわたしたちに背負ってもらいたい人が、いっぱい、いっぱい、いるのよね」
「・・・」
「イッサの最後はわたしも聞いた。アングマール王に何度も切られながらも、血まみれになって立ち向かったって。イッサは悔しかったろうな。あれだけ戦って、かすり傷ぐらいしかアングマール王に付けられなかったみたい」
「・・・」
「だからイッサは最後にこう絶叫したそうよ、
『首座の女神様、申し訳ありません。イッサは女神の男として相応しくありませんでした』
その直後にアングマール王のトドメが入ったみたい」
「ユッキー、イッサは立派だった。まちがいなく女神の男だよ」
「リュースも格好良いね。コトリが必ずアングマールへの雪辱を果たすって信じて疑わなかったみたいやん」
「リュース・・・」
ユッキーはしばらく拾い集めたお菓子をポリポリ食べていた。
「イッサも、リュースもコトリに託したんだよ。このエレギオンの未来を。ウレだってそう、他の連中もそう。コトリさえ生き延びてくれたら、エレギオンは必ず最後に勝つって信じてたんだよ。そしてね、その願いは叶ったの。だからコトリがここにいる」
「でも、ユッキー・・・」
「応えてもイイんじゃない。わたしはどっちでも付き合う。終りにするならそれでヨシ、託された願いに応えるなら全力を尽くす」
コトリはリュースの最後の言葉を噛みしめてた。リュースはコトリを信じていた。ゲラスの惨敗があっても信じていた。コトリならエレギオンを救ってくれると信じていた。マシュダ将軍でさえそうだった。でも、でも、でも・・・
「守るべき者、頼ってくれる人がいる限り、女神稼業は続くと思うんだ。ちょっとこっちにおいでよ」
エレギオンに帰ってから初めて部屋を出た。ユッキーの導かれるまでにフラフラと。ユッキーがコトリを導いたのは女神のテラス。大広場に面したところにあるんだけど、出てみると人がテンコモリいた。コトリが姿を現すと口々に、
「次座の女神様だ」
「次座の女神様がお戻りになったぞ」
「次座の女神様がおられる限りエレギオンは滅びない」
「次座の女神様・・・ばんざい」
コトリはきっと石を投げられると思ってたんだ。飛んできたら、全部受けるつもりだった。それだけのことをコトリはしてしまったんだもの。それが、それが、
「みんなコトリを待ってるよ」
「ユッキー・・・」
「さあ、ご飯食べよ」
「わかった。でもその前に」
群衆にコトリは宣言したの。
「エレギオンに女神がいる限り、エレギオンは不滅なり。ゲラスの雪辱は必ず果たすと宣言する」
群衆から怒涛のような声があがった。
「ユッキー・・・ゴメン」
「いいのよコトリ。お互い因果な商売やらされてるし、コトリがイヤなのも知ってるもの」
「それはユッキーだって」
「ホントに参るわよねぇ。こういう時はとくに」
後で知ったんだけど、ゲラスの惨敗後のユッキーは一睡もせずに事態の収拾をやってたみたい。イッサの死の報告さえ、
『首座の女神の男に相応しい働きであった』
これしか言わず、涙一つこぼさず働いてたんだ。
「ユッキー、今晩からはコトリも働く」
「そうしてくれる。寝不足はお肌に良くないから。でも、もうちょっとしてからね。ちゃんとコトリが食べてくれるようになるまで働かせないわよ」
エレギオン軍の立て直しのためにはヤマほどやることがあるんだ。コトリはイッサや、ウレ、リュースの願いを託されてるんだ。それだけじゃなく、コトリのために屍の山を築いてくれたみんなの願いが託されてるんだ。ゲラスの雪辱は必ず果たして見せる。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます