「銀のピアノ姫」恋を知る

春夜もこ

第1話 プロローグ

 ここはイリーセス王国。

 土地は豊かで人々の性格も大らか、周囲の国との関係も良好な平和な国…だと言われている。平和な国とはいえ、争いや陰謀がないわけではないのだ。まぁ、それは今のところいいので置いておこう。


 イリーセス王国の王城の一室。

 そこに美しい金の髪を持つ16歳くらいの少女が座っている。その美しい髪に負け劣らずの美しい金の瞳が不安げに揺れる。彼女はリーシラ・フォル・イリーセス。このイリーセス王国第3王女である。内気だが心優しい王女様だと皆口を揃えて言う。

 王女の前にはピアノが置かれており、そのピアノの椅子にこれまた美しい銀の髪をもつ少女が座っている。歳は王女と同じくらいだろうか。彼女は自身のサファイアのような瞳を静かに閉じる。そしてそっと鍵盤に白くて長い指を置いた。


 -くる。この部屋にいる誰もがそう思った。彼女の白い指が鍵盤を押す。そこから、美しく心に響くような演奏が始まったのだった。


 まるで時がとまり、彼女の弾く音楽の世界に入ったかのよう。 


 どれくらい時間が経ったのだろうか。彼女の演奏が終わった。ある者は涙を流し、ある者は感嘆のため息を吐く。彼女は椅子から立ち上がり、王女の前に行ってお辞儀をする。この部屋にいる者全てが名残惜しそうに彼女を見つめる。それほどに素晴らしい演奏だった。


 深々とお辞儀をした彼女は王女の目をしっかりと見る。サファイアの瞳と金の瞳が交わる。不意に王女がこう言った。


「銀のピアノ姫、素晴らしい演奏でした。貴女を私付きの宮廷音楽師とします」


 と。


「お名前は?」


 王女が尋ねる。


「シア・フォルトンです。不束者ではありますが、今後ともよろしくお願いします」


 ここから、彼女改めシアの第3王女付き宮廷音楽師としての物語が幕を開けた。

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