第35話

珍しく太陽の光がまぶしい、風のない午後だ。


外に出た俺たちは、草の伸び放題に伸びた広場を駆け抜ける。


俺たちがこじ開けるのに、あれだけ苦労した扉を、ヴォウェンは蜘蛛を使っていとも簡単に開けさせた。


飛び出した俺たちのあとを、追いかけてくる。


目的地なんて、なかった。


外に出たところで、行く先も逃げ場もない。


よく考えてみたら、どうしてこんなに外に出たかったのだろう。


こんなにも天気がいい日は珍しいから、最近外に出ていなかったから、ただ単に外を走りたかったから、それだけだったのかもしれない。


「止まれ、今ならまだ間に合う」


ヴォウェンの声が聞こえる。


間に合うって、何に間に合うんだろう。


機動ロボの発したレーザーが、先頭を走る俺たちの目の前の草をなぎ払った。


ルーシーが転ぶ。


立ち止まった俺の前に、ヴォウェンが迫っていた。


先を走っていたジャンが、それに気づいて戻ってくる。


「立ち止まるな、走れ!」


ジャンは、俺たちに背を向けた。


手にしている強制終了棒なんかで、あの蜘蛛たちにかなうわけがないのに。


蜘蛛は立ち止まった俺たちを追い越して、他の逃げた仲間を追いかけていく。


抵抗しようとするジャンの前で、唯一立ち止まった蜘蛛の上から、ヴォウェンが見下ろした。


「全員を連れ戻せ。大人しく作業を続けさせろ」


ジャンは、持っていた長い警棒を振りかざした。


その先端を、蜘蛛の脚に叩きつける。


ヴォウェンの乗った蜘蛛は、ピクリともしなかった。


ジャンは何度も何度も、振りかざし叩きつけ、電流の装置を流したり引いたりしていた。


スクールの中では一番の腕力を持ち、運動神経も抜群、知的で誰よりも信頼の厚いジャンが、どれだけ華麗な棒術の腕前を見せても、ビクともしない、傷一つつかない。


警備ロボ相手では無敵を誇った彼も、ヴォウェンの前では、全く歯が立たなかった。


「もういい加減分かっただろ」


彼はため息をつく。


「お前を押さえておけば、他も全て言うことを聞くと、思ってたんだがな」


ヴォウェンが、ひらりと蜘蛛の上から飛び降りた。


その落下の速度も利用して、ジャンの頭部を殴りつける。


くるりと体を反転させて繰り出した左足が、ジャンの腹を蹴り上げ、さらに右腕で殴りつける。


よろけた彼の胸ぐらをつかむと、もう一発殴りつけた。


「人間より、機械の方が優しかったな」


倒れたジャンの両肩をつかんで立ち上げさせると、みぞおちへの膝蹴り。


その場に倒れ込んだ彼を、さらに踏みつけた。


「やめろ!」


この人に、力で敵わないのは、分かってる。


どうしたら、勝てるんだろう。どうすれば、勝ったことになるんだろう。


「彼を、放してください」


そう言った俺に、ヴォウェンはふっと笑った。


「スクールの外へ出てどこに行く? この島から抜け出していけるところなんて、どこにもないんだぞ。無駄な抵抗だとは思わないか?」


「思います」


「じゃあ、大人しく戻ってこい」


彼はため息をついて、ジャンの背中から足を下ろした。


ふらふらと立ち上がり、ヴォウェンに向かって拳を振り上げたジャンを、もう一度殴りつけて沈める。

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