12-2(29)
僕たち3人が待ち合わせした居酒屋はテレビでも時おり紹介される
人気店でソラちゃんの勉強も兼ね選んだのだが、既にテーブル席は満席
で仕方なくソラちゃんを真ん中にカウンター席で食事を取ることした。
『お疲れ――っ!』
僕はひなちゃんと同じ梅酒のソーダ割りで人生初のアルコール
デビューを果たした。
「ソラちゃん、大丈夫かな? ちょっと不安なんだけど」
「大丈夫だと思うよ。だって柴田部長、お酒強かったみたいだから」
「そ、そうなの」
「大丈夫だって、ヤバそうだったら僕が止めてあげるから」
「頼むよ、ソラちゃん!」
「ところでショ―ちゃん、ココ来る前どこか寄って来たって言って
たけどどこなの?」
「そう、そう私もすっごく気になってたのよ」とひなちゃんが
カウンター越しに笑顔を覗かせた。
「実はね……、どうしょっかな~ やっぱ言うの止めよっかな~」
「なんだよ~ じらすなよ~」「そうよ、早く! 早く!」
「実はね、ループラインがもう一つ存在したんだ!」
「え――っ! ホントかよ」
「それも性格別の」
「えっ、じゃ~ 駅名はどうなってるの?」とひなちゃんが興味深々
の眼差しでソラちゃんに覆いかぶさるような仕草で聞いてきた。
「それがよく分かんなくて……」と僕はポケットから当時書き記した
木の皮を取り出した。
「ソラちゃん、分かる?」と差し出すとソラちゃんが少し考えた後、
意外と早く答えが返って来た。
「これ元素記号じゃないかな、こすれて消えちゃたのは分んないけど」
「元素記号?」とソラちゃん以外の2人は首を傾げた。
「ちょっと待って」とソラちゃんはスマホで検索し始めた。
「え~っと、このARってのはアルゴンでSIがケイ素。あとZNが亜鉛で
Vがバナジウム、DYがジスプロシウムだって」
「で、どういう意味なの?」
「ちょっと待って、もう少し調べるね」と再びスマホをいじりだした。
「ふふっ! そういうことか……」とソラちゃんがニヤけると同時に
両サイドの2人はまるで吸い寄せられるようにソラちゃんにくっ付いた。
「アルゴンはギリシャ語で怠け者だって! ショ―ちゃん実際のところ
どうだったの?」
「怠け者? あ――っ! ベンさんだ――っ!」
「ハハッ! やっぱり思い当たるフシがあるんだ」
「やっぱちゃんと意味あんだね、他には! 他には! ソラちゃん!」
「え~っと、バナジウムは愛の女神だって、どんな町だったの?」
「どんな町……? えっと~ あっ、それナオちゃんの町だ!」
「だ~れよっ! ナオちゃんって」とひなちゃんがニヤついた。
「いや、たまたまZNって町で出会っちゃって軽~く食事しただけだよ」
「ふ~ん、それだけ?」
「そ、そうだよ、それだけだよ」
「で、どんな子だったの? やっぱり女神だった?」
「いや、まだ未成年だったからプチ女神かな? ははっ!」
「何よそれ、つまんない」
「そ、それより、ナオちゃん凄くZNって町、嫌ってたな~ ソラちゃん
、ZNはどんな意味?」
「それがさ~ 名前の由来がないんだよね~ さっきから見てるけど」
「じゃ~ その亜鉛っていう元素の特性と関係あるんじゃない?」と
ひなちゃんがスマホを覗き込んだ瞬間ソラちゃんが閃いたようだ。
「あのさ~ 鉄の腐食防止に亜鉛メッキってのがあるんだけど、この
ことじゃない?」
「え~っ? よく分かんない」と僕たち2人は口を揃えた。
「だからメッキだよ、メッキ。つまり上辺だけ綺麗にして中身以上に
良く見せたりすること、見栄を張るってことだよ。どうだった?
実際、町の住人は」
「そうそう、ナオちゃんも言ってた! 言ってた! 見栄っ張りだって。
だから嫌いなんだって。凄いねソラちゃん、それ絶対正解だよ!」
そんな話で盛り上がる中、食事が運ばれ、僕はソラちゃん達につられ、
本日2杯目のドリンクを注文した。
「で、ショ―ちゃん、実際色んな町訪れてどうだった? すごく興味あるん
だけど」
「一番僕が感じたのは町ごとに服装や体形、食べ物の好みがやたら似てる
ってことかな。あと各町でよく耳にしたのは基本同じ性格の住人同士で
町が作られてるんで、ルール作りを含め全てに関して争いごとが少ない
みたいよ」
「まぁ、争いごとに関しては分るけど、食べ物の好みが似てるって
のはな~ 偶然でしょ、だぶん」とソラちゃんが首を傾げた。
「そっかな~ この前、偶然会社近くのスーパーで大嫌いな社員に出くわし
たんだけどソイツのカゴには僕の嫌いな食材がいっぱい入ってたよ」
「ハハッ! だからそんなの偶然だって!」
「やっぱ、そうなのかな~ まぁ、それよりこの特区には数字の
ループライン以外に今回のループラインからもかなりの人数入って来てる
と思うんだけど、2人はどう思う?」
「だぶん、ショ―ちゃんが言う通りだと思うよ」「そうね、私もそうだ
と思うわ」
「どうりでココ特区は争いごとが多いはずだよ。もしかするとココ東京、
だけでなく日本、いや世界中が特区なのかもな」
「なんかすごい話になってきたわね。すみませ~ん! お代わり
お願いしま―す!」とひなちゃんがカウンター越しに頼むのを見て、
僕もすかさずドリンクを追加した。
その後も懐かしい7番村での思い出話に華が咲き、気づけば早3時間
が過ぎソラちゃんは少々飲み過ぎたのか激しい睡魔に襲われたようだ。
「もう眠くてダメだよ~ ゴメン、先帰るよ」「ハイ、これ僕とひなの分」
「ひなも帰るね」
「え――っ! ひなちゃんも帰んの~」
「うん! そらちゃん心配だもん、ごめんね!」
「そっか~ じゃ~ひなちゃん、よろしくね~」
「ショ―ちゃん、あんまり飲み過ぎちゃダメよっ!」
「ふぁぁ~~い、ひなちゃんに怒られちゃった~ ははっ!」
「何言ってんの、まったく、またね!」
「うん、バイバイ、ソラちゃん、ひなちゃん、まったね~」
僕は引き続き一人カウンターで飲んでいるとトイレから戻って来た
女性が再び僕の隣に座り突然僕に話しかけてきた。
「何飲んでらっしゃるの?」
「こ、これは…… 何だっけ、あっ、右から3番目の日本酒だったかな」
「じゃ、私も」と彼女は僕と同じ日本酒を注文した。
実のところ僕自身かなり彼女のことを意識していた。
ソラちゃんたちと話しつつも真横で笑顔で聞いているなんともイイ香り
の素敵な女性に対し少し好意を抱いていたのも事実で、思いもよらぬ
展開に僕は緊張した面持ちで正面を向いたまま固まってしまった。
そんな様子に「どうしたの?」とのぞき込むように見つめる彼女の
魅力的な表情に翻弄された僕はその後も調子に乗り彼女とお酒を飲み続けた。
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「ねぇねぇ、私だったらどの町出身かな?」
「う~ん、美人の町じゃない、ヒック!」
「なぁ~に、それ、美人は性格じゃないわよ、ふふっ!」
「ちょっと大丈夫? 目がうつろなんだけど」
「え~ うつろってなぁ~に~」と僕の記憶はこの辺りでプツリと
途絶えてしまった。
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