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〈ファ――ン!〉〈ガタン!〉〈ゴトン!〉…… ……


 しっかしさっきの町もクセあったよな~。

 あの男から姉妹関係にある町があるって言うからちょっと寄って

みたけどあの住人たちの欲深さってハンパないよな、まったく。

 なんで家を何軒も集めるんだよ、1軒あれば十分じゃね~か。

 家だけじゃなく住人それぞれ好みがあって趣味程度に集めるんなら

理解出来るけど集め方が異常だもんな、ホント意味分かんないよ。

 あんなことしてたら食べ物や資源なんかもあっという間に一部の有能

なヤツらが買い占めて他の住人達に行き渡んないじゃんか。

 それでも程度の差はあれアソコの住人たちは基本同じ考え方だから

そうは考えずむしろ買い占めてるヤツに憧れを抱くんだからホント

どうかしてるよ。

 確かに強欲だから色んな商売があったり頑張り方が凄いけどなんか自分

しか見てないもんな。あっ、だからあの男の町と姉妹関係なんだ。

 ただ露骨に騙したりしない分あの男の町よりまだマシか。

 あと欲望と能力のレベルが高い住人はアソコでいい思い出来るけど

そうじゃない住人はあまり欲のない町や村に移住するって言うもんな。

 平穏に暮らしてる町や村にとっちゃたまったもんじゃないよな。まっ、

確かに生活レベルは多少上がるかもしんないけどさ。

 実際移住先をあっせんする業者が存在するんだから恐れ入るよ、まったく。

 そうそうそれと駅名がないのも不思議だったけど聞くと駅名の権利取得

が最高のステータスで毎回もめて裁判沙汰になり長い間空白だなんてもう

理解不能だよ。

 まだ確実じゃないけどどうもこのループラインは性格別に区分けされ

てるのかもしんないな。

 初めは各村や町の文明を実際この目で確認し自身の村に役立てようと

思ってたけど、性格別のループラインを発見したからにはそれが現実社会

にどのように影響するのかを確かめるのもある意味我が村のリスク回避に

一役買うかもなって……あれ? ボクちょっと賢くなった? そうかもね!

 でもある程度急がないと7番村に帰ったら20年も過ぎてたなんて事態も

ありえるもんな~ あのクソペナルティーのせいで。

「困ったな~」とふと連結部に目を向けると今まで気付かなかったが

隣の車両に人影のようなものが見えた。

 僕は目を凝らしながらゆっくり近づき、連結部のドアを開けると車両中央

に細く背の高い同世代ぐらいの男性が紙に向かってペンを走らせているのが

見えた。 

 これはチャンスとばかりに僕は無言で男性が座る長椅子に少し間隔を空け

座り、そっと紙を覗き込んだ。

 すると男性はこちらをまったく見ずそのままの姿勢で僕に話し掛けてきた。


「分かるかい?」

「えっ! い、いえ何も……」「もしかして呪文?」

「ははっ! キミ面白いネ!」

「ははっ! そ、そうかな」(けっこうマジで言ったんだけど)

「実は眠らないでいい方向を考えてるんだ」

「えっ、眠らない方法って?」

「眠るって実に無駄な行為なんだ。キミはそう思わないかい?」

「い、いや、特に」

「少しでも長く研究を続けていたい僕にとっては睡眠は邪魔で無駄以外の

何ものでもないんだ」

「へぇ~ そうなんだ」と僕はおじさんの顔をしげしげ見つめるも彼は

いたって真剣だった。

「ボク、ショ―タって言うんだけどおじさんは?」

「僕はレタス」

「レタス?」(プッ! 変なの)

「父が大好きな哲学者をもじったみたいなんだ」  

「へぇ~」


 飾らなく物腰柔らかなレタスさんに心許した僕は今までの緊張感から

まるで解放されたかのようにソラちゃんとの出会いから今回の目的まで

ペラペラ喋り続けた。

 

「へぇ~ それじゃ出来るだけ色んな町や村を訪れるべきだよ」

「うん、でもあまり時間がないんだ」

「どうして?」

「だってペナルティーがあるじゃん」

「キミは何番から来たの?」

「7番だけど、それがどうかした?」

「確かに今7番に帰ったら数年経過してるだろうけどキミが話した特区

に立ち寄るなら特に問題ないよ」

「えっ! そうなの?」

「そうだよ、最近の研究で分かったんだけどね」「実は特区ってホント

不思議な町で一旦特区に入るだろ、それでそこから違う町や村を

訪れても急激な時の経過はないんだよ。その代わりもしキミが再び

特区に戻る際には当然ペナルティーを受ける事になるけどね」

「じゃ、最終的に7番に戻るボクにとってペナルティーは関係ないって

ことか~ 超ラッキー!」

「でも特区を拠点に行ったり来たりしてるとキミの寿命にもよるけど

危険だからそこは絶対注意した方がイイよ」

「そうだよね。特区で死んじゃうこともあるもんな、気を付けるよ!」

「それにしてもループラインのペナルティーってホント解明するのに

頭悩ますよ、ははっ!」

「それでも諦めずに解明しようとする所が凄いよ、レタスさんは」

「当初、パラレルワールドが関連していると考えられてたんだけどね」

「パラレルワールド?」

「つまりこの世界以外にも同時刻或いは時間差で別の世界が多数存在する

するってことなんだけどね。で、あの加速的な時の経過ってのは改札を

抜けた瞬間に起る現象なんだけどそれが実は元いた世界とは違う別世界、

つまりパラレルワールドじゃないかと仮説を立てたんだけどどうも違う

みたいなんだ」

「違うって……?」

「キミが話してくれたソラさんを例に挙げるとね、1回目のペナルティー

で数か月、2回目で2年の時の経過を体験したみたいだけど、もしそれが

時が経過したように見える別世界と考えると2回とも同じ会社勤めなんか

出来るはずがないし実際同じ会社が存在していたとしてもアンタ誰って

ことになると思うんだ。つまりそのまま会社勤めが可能なのは改札を

抜ける瞬間の超高速時間経過の過程で別のソラさんがしっかり同じ会社で

働いていたってことになるよね。この部分の解明が難しいんだ。だって

時間軸が違えど実際2人のソラさんが存在していたんだから」

「……なんかレタスさんって凄いね、もしかしてSIの人?」

「そうだよ、よく分かったね!」「あっ! もうすぐZN駅だよ」

 

〈ファ――ン!〉

 

 列車は汽笛を鳴らし徐々に姿を現した駅のホームに僕は今までとは違う

なにやら高級な雰囲気を感じた。


「行ってみるかい?」

「うん! ちよっと興味が湧いてきたから降りてみるよ!」「レタスさん

ありがと! バイバイ!」


 僕はホームに燦然と光るZNの文字を見つめ今度こそ当たりの町で

ありますようにと願いを込めゆっくり改札へと向かった。

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