第6話-1
会場は町のからすこし離れた場所にあった。
車を飛ばして二時間。なにもない道のりを越えて、たどり着いた会場には、開場待ちでたくさんの人だかりができていた。メリカが言っていた奉納試合の日も近く、地元出身のガブリエラと彼女の妹が奉納試合を行うということで、地元の英雄の凱旋をひと目見ようとたくさんの人達が訪れているのだろう。この日のメインイベントには、ガブリエラとマクベが出場所属する3人チームのタッグ戦がトリに置かれていた。
興行が終わったあと、クラウディアとニジミは関係者専用の入口にむかう。
スタッフに名前と用件を告げると、控室まで案内された。
案内された控室のドアには『
……あんな試合のあとだからなぁ。
クラウディアはすこし気まずい気分でドアをノックする。
「いいぞ」
というハスキーがかった声の返事を受けて、ドアを開ける。
「クラウディアさん」
ガブリエラはベンチに腰掛けた状態で出迎える。「来てくださりありがとうございます。どうでした。興行は楽しんでいただけましたか?」
頭からタオルをかぶり、汗を滴らせ、まだ軽く肩を上下させて息をしていた。
ニジミがマクベに、「だいじょうぶ? ケガはなかった?」と心配そうに訊ね、
「あたりめぇだろ!」とマクベはなぜかキレ気味に返す。
「……えっと、そうね」
選手を詳しく知らないクラウディアとニジミにとっては、メインの試合以外はだれが勝とうと負けようと、感情移入もできなければ、波乱がおこったかどうかもわからない。ただ、ニジミはその迫力にすごいすごい、痛ったぁーと楽しんでした。そんな彼女たちでもわかる波乱が、メインイベントで起きた。
三対三で組まれた最後の試合。
ガブリエラ=コートが率いる『聖鬼軍』と、彼女の妹であるダニエラ=コートが率いる『堕天使隊(ラス・エンヘル・カイド)』の試合途中。ガブリエラのチームにいた選手がとつぜん敵側に寝返った。ガブリエラとマクベは動揺を隠しきれないまま、それでも必死に応戦する。しかし二対四では反撃してもすぐに妨害されて、攻撃の時間はあっという間に途絶えて、さいごはマクベが3カウントを取られるという、ほぼ完封された敗戦を喫したのだった。
「アリーのヤロー、裏切りやがって。試合前から様子がおかしいと思ってたんだ!」
マクベがロッカーを殴り、扉を凹ませた。
完全に頭に血が上(のぼ)っている。
「あれって、そういうシナリオとかじゃないの?」
「ンなわけねえだろ!」
マクベが怒鳴る。
「プロレスってそういう要素も入れながら観客を楽しませてるんじゃないの? 私、プロレスは詳しくないのよ」
クラウディアの質問に、
「へっ、そいつぁすげえや!」とマクベ。
「クラウ、そんなわけないじゃん!」
ニジミもマクベを支持した。
「ぜんぶの試合がホンキの試合だったし、あのうらぎったひとはわるいひとだ!」
……あんた、すっかりプロレスファンね。
そういえば途中からこいつは、ほかの観客と混じって、ノリノリで選手に応援やブーイングを飛ばしていた。
「まあまあ」
制したのはガブリエラだった。「クラウディアさん。プロレスはプロレスなんです。格闘技でもショーでもないけれど、どちらにも共通するものがある。それがプロレスです。私たちは格闘家のように強くなりたいと努力しますし、役者のように観た人を笑顔にしたいと願ってます。そしてそのどちらとも同じように命を懸けながら、ライトの光が降りそそぐ舞台にあがっているんです」
「……はぁ」
「難しいですか? でもそれがプロレスです。カニかまぼこに『これはカニじゃない』と言うくらい無粋であり無意味ですよ」
わかるような、よくわからんような。
「その説明はよくわかんなかったけど、あたしはプロレスもカニかまぼこも好きー」
ニジミが両手を上げて答えた。
その答えにガブリエラは、「ありがとうございます」と答えて、マクベは、「おめーわかってんじゃねえか」と、ニジミの頭を乱暴になでた。
「あらあら、ここの控室は、なにやら古くさいニオイがしますわね」
甲高い声がして、控室のドアが開いた。
「ダニエラ……」
「てめぇ……」
ガブリエラとマクベの表情が険しくなる。
「おほほほほ、また今日も試合になりませんでしたわねぇ、ガブリエラお姉さま」
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