リベンジ
復活されたコトリ部長はアッと言う間に溜まっていた仕事を片付けてしまい、以前の状態に戻られました。それにしてもコトリ部長は山本先生が好きなんだ。それまで誰が慰めてもどうしようもなかったコトリ部長が、一回叱り飛ばされただけで立ち直っちゃったものね。ユッキーさんのところにもコトリ部長はお礼に行ってますが、
「ところでコトリ部長、どうやって山本先生の意識を失ったことを誤魔化されたのですが」
「あ、それ。大怪我の後遺症の可能性があるから、精密検査した方が良いってアドバイスしておいた」
これ聞いただけで完全復活と思ったものです。そうそう、どうやって偽カエサルを見破ったかを聞いてみました。ユッキーさんはコトリ部長が偽カエサルを必ず見破ると信用してましたが、どこでどう見抜いたかは是非知りたいところです。
「ミサキちゃんやシノブちゃんを誘い込むように頼むわけよ」
やっぱりそうなってんだ、
「だからおかしいと思ったの」
「それだけで?」
「だって、本物のカエサルなら人妻のミサキちゃんやシノブちゃんを口説いて愛人にしても不思議ないけど、自分でやるじゃない」
うん! 間違いとは言い切れないけど、どこか話が、ずれてるような、
「それにさぁ、ミサキちゃんや、シノブちゃんと並んでカエサルの愛人になっても構わなかったんだけど・・・」
ミサキは絶対イヤですし、シノブ部長もイヤのはずです。
「本物のカエサルなら、コトリに嫉妬心なんて抱かせるはずがないやんか」
「は、はあ」
「コトリは嫉妬した瞬間に気づいたの。コイツは偽物だって」
結果として気づいたからイイようなものの、どこかコトリ部長の発想は、ずれてる気がします。
「それとね。コトリは抱かれたし、それが良かったのは認めるけど、途中からなんか変なクスリ使うのよ」
ヘロインの話かな、それとも覚せい剤でも使われたのかな。
「使うと、たしかに頭が真っ白になるぐらい良くなるんだけど。この時にカエサルじゃないと思ったの」
「どうしてですか」
「だって、本物のカエサルがそんなクスリに頼るわけないじゃないの」
クスリの快楽に溺れなかったのはさすがコトリ部長と思いましたが、そこを偽カエサルとの鑑別点にした点が、どこか、ずれてる気がします。ではでは、どうして気づいた時点で去らなかったかと聞いていたんですが、
「これはミサキちゃんにも、みんなにも本当に謝るけど。とにかくマルコ以来じゃない。久しぶりで燃えちゃったのよ。もう燃えまくったって感じ。そう言えば、最初にカエサルに違和感を抱いたのは・・・」
なんか嫌な予感がする。
「バイアグラを使ってるのよ。まあ、あの歳だから使ってでも喜ばせようとしてるって最初は思ったんだけど。本物のカエサルなら、たとえ使っても、使ってるところを絶対に相手に知らせない様にするはずじゃない」
カエサルの時代にバイアグラはありませんが、そういう影の努力はカエサルなら見せないようにすると思うのは同意です。というか、現代の男でも見せないようにする気がします。女のミサキから見て、バイアグラ飲んでアレしようとする男は良い感じがしません。
うん、うん、偽カエサルだってバイアグラ使ってるのは見せたくなかったはずです。ここは見せざるというか、隠し切れない状況があったんじゃないでしょうか。まさか、まさかと思いますが、どうしてもこの手の話題はミサキは苦手なので少し遠まわしに聞いてみます。
「コトリ部長。他に違和感を持たれた点はなかったのですか」
「他って?」
「たとえば、話の内容とか、態度とか、立居振舞とか、そうだ、服装とか、持ち物とかでもカエサルらしくない点があったと思うのですが」
「あったかも、しれへん。ただ・・・」
ここでの『ただ』は絶対やばそうな予感が、
「そういう観察をする時間が無かったのよ。たらたら晩御飯食べてからアレやったら、時間が無くなるやんか。そやから、晩御飯は別々にさっさと済ませて、逢ったらホテルに一直線やってん。四時間ぐらいはやっぱり欲しいと思うやろ」
『思うやろ』と言われても返事に困るのですが、これでは本当にアレするための目的の関係にしか聞こえません。ちょっと異常すぎる気がします。そうなったのは・・・そっか、そっか、偽カエサルはアレ以外の時間を長く取ったらボロが出ると考えたに違いありません。だから余計な会話を可能な限り避けて、とにかくベッドに連れ込んだぐらいです。
それにアッサリ乗ってしまったコトリ部長もどうかと思うのですが、ここまでは偽カエサルの掌の上でコトリ部長は踊らされてる事になります。でもこれだけではバイアグラがコトリ部長にバレるとは思えません。夜にアレする前に飲んで行けば良いだけです。そうなると、まさか、まさかと思いますが、
「休日とかはどうされていたのですか・・・」
「うん、休日は楽しみだった。ルンルンで早起きして、そりゃもう朝から。時間あるから心行くまでやれたよ。やっぱり時間は大事よ。」
朝からって、その、あれ、えっと、
「お昼までですか」
「食事に出る時間も惜しいやんか、土曜の朝から月曜の朝まで泊まり込み。月曜が代休で休みの時は嬉しかったよ、三泊してた。着替えはいらへんし。お蔭であの辺のホテルで食べれるメニューの種類はあらかた覚えてもた。そうね、お勧めで美味しいのは・・・」
ラブホのグルメ自慢をされても困りますし、そりゃ、何泊しようが着替えはいらないのはそうですが、ラブホでずっとなんて・・・
「映画とかも見ておられとか」
「そんな、もったいないことするかいな。夜はさすがに寝たけど」
げぇ、ガチで朝から晩まで連泊でフルタイム・・・偽カエサルもあの歳ですから、それだけ求められたらバイアグラにも手を出すでしょうし、連泊や三連泊も続けていればコトリ部長に隠し切れなかったのもわかる気がします。どう聞いてもコトリ部長はひたすら求めていたとしか思えませんが、そこまでのレベルになれば、偽カエサルも命削ってた気がします。
シノブ部長に聞いたことがあるのですが、あれだけ口癖のように『男欲しい』って言いながら、コトリ部長の彼氏はマルコの前が山本先生で、その前もほんの二、三人らしいのです。つまりは入社してからせいぜい片手程度ってところです。じゃあ彼氏とアレをしまくってたかというと、マルコに聞いたことがあるけど
「コト~リは素晴らしかったけど二回だけだよ。ミサ~キがイタリア出張に行くだいぶ前だ。これは決してウソじゃない。信じてくれ」
山本先生とはどうだったかですが、これはシノブ部長もミサキも聞いたことがあるのですが、恋人時代は手をつなぐ程度で、プロポーズの時にやっとキス。アレしたのは婚前旅行の時のみだったのはホントのようです。婚前旅行での経験は聞いてる方が真っ赤になりそうでしたが、どう聞いてもそれだけです。
マルコも言ってましたが、これまた聞いてる方がむず痒くなるぐらいのロマンティストというか少女趣味的なところがあって、アレに突撃するより、ジッと手をつないで見つめ合ってる方が好きとしか思えないのです。そんなコトリ部長が連泊フルタイムでガチでアレだけって不思議な感じです。
一方でアレは嫌いじゃないというより、大好きとは仰られてましたが、なにか偽カエサルはしくじったような気がします。偽カエサルの目的ですが、コトリ部長を愛している訳じゃなく、どうにかして籠絡する事です。これは佐竹次長の推測が正しいと思います。
籠絡するためにはコトリ部長の心を蕩かせないといけませんが、おそらく最初に抱いた時のコトリ部長の満足ぶりを見て、アレで心も体も蕩かせてしまおうと判断したと見て良さそうです。この辺は微妙な言い回しになりますが、好きだから抱かれる訳で、抱かれる満足度が高まれば心も連動して蕩けるはずです。これはアレだけに専念する関係をあっさりコトリ部長が受け入れた時点で確信に変わったはずです。
でもこうやって結果を見ていると、コトリ部長は偽カエサルのアレ専念の関係を受け入れた時点でドライに切り替えた気がしています。コトリ部長が偽カエサルのアレに満足していたのは本人が言っているので間違いありませんが、偽カエサルがアレ専念の関係を提案した時点で、恋人じゃなく体だけの付き合いに割り切ってしまったぐらいです。
体だけは言い過ぎだと思いますが、ユッキーさんはコトリ部長が有名人に弱いと仰ってましたから、芸能人とか俳優の一夜妻みたいな地位に自分を置いたぐらいでしょうか。そんなコトリ部長の心を読み切れずに偽カエサルはボロを出してしまったぐらいです。
こうやって死に物狂いで冷静な分析をやっているのですが、ミサキの頭の方が狂いそうです。とにかくコトリ部長はその気になれば、ここまで割り切ってトコトン楽しめるようです。そりゃ、コトリ部長の男性経験は五千年の積み重ねがありますから、並みの女を百人や二百人泣かせたぐらいじゃ、足元にも近寄れないのでしょうぐらいしか言いようがありません。
「そうそうミサキちゃん、あの偽カエサル、捕まってないんだよね」
「佐竹次長は高飛びしたんじゃないかと見てましたが」
「その可能性もあるけど、コトリはまだ日本に潜伏している気がする」
「なにか根拠はあるのですか」
「だって、ミサキちゃんやシノブちゃんの味見が済んでないじゃないの。あれだけ執着してたから、まだ日本にいても不思議ないと思うの」
う~ん。ミサキやシノブ部長に執着した理由は佐竹次長の推測の方が正しい気がします。そりゃ、偽カエサルも男ですから抱きたいの感情がゼロとまで言いませんが、そのためだけに危険な日本にわざわざ滞在する理由がないような。
「もし日本に滞在していたらどうするつもりですか」
ここでコトリ部長は凄絶な笑みを浮かべて、
「知恵の女神を、ここまでコケしたのよ。それ相応の落とし前はつけさせてもらうわ」
コケにされたというか勝手に転んだようにも見えますが、
「じゃあ、やるのですか」
「もちろんよ。一週間連泊して絞り尽くしてやる」
ちょっと、ちょっと、コトリ部長。『やる』ってアレなんですか。もっとも、あの勢いで一週間続ければ、もう懲役みたいなものでしょうが、
「ドドメに宇宙の塵に変えてやる」
連泊一週間は不要の気がしますが、ここは無理やりでも、連泊一週間で偽カエサルの体力を奪う作戦と解釈します。舞子の対魔王戦はそれぐらい際どかったからです。
「実際のところ魔王より強そうなんですか」
「バイアグラに頼ってる時点で弱そうな気がしないでもないけど、魔王とはやってないから比較は難しいところね」
あのぉ、その『強い』じゃないんですけど、
「あの、その、武神としての実力はどうですか」
「ああ、そっちの方」
普通はそっちを考えるでしょう。誰がベッドの上の強さなんか聞くものですか。今度は真剣に考え込んでおられます。
「バーで初めて偽カエサルに会った時に、魔王は部下みたいな話をしてたけど、あれは違うと思う」
「どういうことですか」
「魔王も偽カエサルも武神であるのは間違いないけど、武神同士はもっの凄い仲が悪いのよ。たとえれば犬と猿、水と油、嫁と姑、不倶戴天、ルサンチマンってところ」
「そんなに」
「だから部下になるより戦って死ぬし、武神なんか部下にしたら二十四時間三百六十五日、自分の寝首を心配しなきゃならなくなるわけ」
「でも、あの時にはコトリ部長は・・・」
「もしカエサルが武神であれば出来ると思っちゃったのよね。でもカエサルじゃなけりゃ、主従関係は一〇〇%成立しない」
「だとすれば」
「たぶんだけど、最初に請け負ったのは魔王で、次に請け負ったのが偽カエサルでイイと思う」
これもコトリ部長の不思議な点で、こうやって冷静に事態を分析することも出来るのです。でも質問にはまだ答えてくれていません。
「それでどっちが強そうですか」
「やっぱりバイアグラに頼ってる点で偽カエサルの方が弱そうな気がする。舞子で戦った時の魔王のエロ・パワーは半端なかったから、純粋にアレやらしたら魔王が上回るんじゃないかな」
だから、ベッドの上の強さの比較じゃないって。
「ああ、ゴメン。戦いの強さを聞きたかったのね。これはわかんないというか、熱中しすぎて見るの忘れた。だって、アレに熱中している最中にそんな醒めたこと考えたらツマランやん」
そう言われますが、偽カエサルを見抜かれたポイントは、ほぼ全部と言って良いぐらいベッドの上かラブホの中で見つけられています。ホントにどういう思考回路の人かといつも驚かされます。
「まあどっちが強い弱いなんて小さなことやし」
だ か ら、対魔王戦では殆ど死んでたって。コトリ部長に孫子の世界はないのでしょうか。別に孫子を持ち出さなくとも、対戦相手の力量や弱点を予め調べておくのは基本中の基本のはずです。
「まあ、そんなに心配せんでも、あの偽カエサルをギッタギタにする新戦術を思いついてるから安心して」
あら珍しい、戦う前に用意してるなんて。でも、なんとなく不安だなぁ。ちょっとだけ確認しとこう。
「どんな新戦術ですか」
「まあ、楽しみにしといて。天国から地獄に真っ逆さまに叩きつける事の出来る新戦術だし、コトリだって楽しめるのよ」
やっぱり聞かなきゃ良かった。コトリ部長の『楽しめる』は一週間の連泊を指すのは間違いありませんし、『天国から地獄に真っ逆さま』とは対魔王戦の応用で、完全すぎる密着状態からドッカンするつもりとしか思えません。怖ろし過ぎると言うか、トンデモ過ぎる発想の新戦術です。よくこんなものを思いつくものです。
でも、でもなんですが、密着状態からの一撃がいかに効果があるかは魔王戦で証明されてはいます。しかし同時に強烈な巻き添え喰らいます。魔王戦の時の無理やり出した二発目でさえ死にかけたのですから、フル・パワーに近いものを喰らわせれば、それこそコトリ部長の女神も巻き添え食って即死しかねません。
それとなんですが、アレの最中ですから当たり前ですが素っ裸です。たとえ生き残っても意識が残るとは思えませんから、発見されるのはその状態になりかねません。命を懸けた対決に格好も何もないと言えばそれまでですが、どう考えても腹上死状態での発見になってしまいます。そうでなくと、ラブホで全裸です。
リベンジに燃えるコトリ部長の話を聞きながら、どこからこんなトンデモ発想が湧いてくるかボンヤリ考えていました。コトリ部長の普段のお仕事ぶりは、そりゃ綿密どころか緻密な計算の上でなされます。目の前の状況だけでなく、常に全体の状況を冷静に把握され、一歩どころか何歩も先を確実に読みながら動かれます。これは鉄人コンビをやってる時に思い知らされました。
思うのですが、コトリ部長に取って会社の仕事なんて遊んでいるのと同じレベルの気がします。コトリ部長は次座の女神として魔王戦や偽カエサル戦だけではなく、幾度となく危急存亡の時を切り抜けてこられたはずです。そういう危急存亡の時は常識的な発想では対処しきれないことも多かったはずです。
いわゆる発想の飛躍が必要なのですが、とにかく五千年もやっておられますから、これはピンチと感じた瞬間に無意識のうちに発想は飛躍してしまう気がします。その飛躍の仕方も、これまた五千年の内に、それこそ銀河系の果てまで飛んでいく気がします。いつしか、飛べば発想はトンデモになり、トンデモ発想こそが真実と確信されたんだと想像しています。
トンデモない発想から、トンデモないやり方を編み出して対応しても、そうそうは上手くいかないはずなのですが、デタトコの土壇場勝負の対応力は天才というか、天然で、それは数えきれないどの成功体験によって裏付けられているぐらいに思えてしまいます。ただ、こういうタイプの人とパートナーを組むと大変な目に遭いそうです。首座の女神であるユッキーさんと、
『相性が悪い』
こうひたすら言い合う理由がホントによくわかりました。ミサキも何度か聞かされて、コトリ部長の発想とか行動に仰天させられていますが、首座の女神のユッキーさんなんて何千回経験されたんでしょうねぇ。どうにもコトリ部長の新戦術は使わないに越したことはなさそうなので、偽カエサルが高飛びしていてくれて、二度と日本の土を踏んでくれないように祈るばかりです。
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