翌日
朝になってようやく警察の事情聴取から解放されましたが、救出された四人と山本先生は入院となっています。とくに山本先生は重傷で、幸いにして急所は外れて致命傷にはならなかったものの、ICUで懸命の治療を受けておられます。
小島本部長も違った意味での重傷で、見つかった時には意識不明であっただけではなく、従わせるためにヘロインを打たれ始めていたとのお話です。まだ中毒症状に至っていないとの説明でしたが、しばらくは経過観察が必要と聞いています。残りの三人ですが、これまた意識不明の状態です。
自分が考えた計画ですが、あまりの被害の大きさに自己嫌悪に陥っています。見舞いに駆けつけて来られた加納さんには何度も頭を下げましたが、加納さんは気丈に、
「だいじょうぶよ、カズ君は死なない。死なせるものですか」
会社の方も蜂の巣を突いたような大騒ぎになっています。そりゃ、二人の天使本部長が入院し、マルコ氏夫妻まで入院となってしまったからです。出社したら重役会議で『これでもか』ってぐらい事情聴取されました。それだけではありません。マスコミも飛びついて来て大変です。
謎の集団による荒々しい拉致誘拐、それを阻止しようとした人間が撃たれ、埠頭を離れた船が突然の謎の爆発。これで飛びつかなければウソでしょう。唯一の現場証言者であるボクのところにも取材申し込みが殺到と言うより、クレイエールの玄関に百人以上も待ち構えています。ボクも昨夜からの騒動で疲れ果てていたのですが、綾瀬副社長から、
「佐竹君。君も入院したまえ。そうでもしないと、本社が仕事にならん」
結局、ボクまでシノブたちとは別の病院に入院となりました。でも、正直なところ助かりました。体こそ無傷ですが、メンタル的には限界だったからです。マスコミぐらいしか情報源がないのですが、あの爆発の原因は調査しても不明だそうです。ただあの爆発で船が操船不能になったようです。
逮捕された謎の集団の聴取もあまり進んでいないようです。とくにボスとされる人物はどうも逮捕者の中に含まれていないようです。ボスは言うまでもなく偽カエサルなのですが、あの騒ぎの中から逃げのびてしまったのか、あの船にはそもそも乗っておらず、次の停泊地あたりで合流するつもりであったぐらいの可能性を考えています。
ボクは一週間で退院となりました。退院した途端にマスコミの記者会見に引っ張り出されて大変な目に遭いましたが、それがなんとか終わったのでようやくシノブたちの見舞いに行けます。
「シノブ、ゴメン。こんな目に遭わせてしまって」
「いいのよ、ミツル。助かったんだから。ところで他の人たちは」
「香坂君やマルコ氏はだいぶ元気になってる。ただ・・・」
「だた、どうしたの」
「小島本部長はかなり大変な目に遭ってしまって、しばらく入院が必要みたいなんだ」
ごく簡単に小島本部長の容体を説明すると。
「コトリ先輩ならだいじょうぶ。必ず復活するわよ」
「それとだけど・・・」
「まだ何かあるの」
「山本先生が・・・」
シノブは絶句してしまいました。
「で、どうなってるの。万が一なんてことはないのでしょうね」
「うん、ずっと加納さんが付いてる。お見舞いに行こうかと思ったけど、怖くて近寄れなかった。容体はまだまだ予断を許さない状態みたいだ」
シノブはため息をつきながら、
「山本先生はコトリ先輩が今でも好きなのよ。前に魔王戦でコトリ先輩が意識不明になった時にお見舞いに来られて、三時間ぐらいずっと手を取って泣いておられたわ」
「そんなに・・・」
「最終的に選んだのは加納さんだけど、コトリ先輩を捨てる結果になったのにずっと負い目があったみたい。だから命を懸けて飛び出していかれたのだと思う」
「ひょっとして死ぬ気だったとか」
「そこまでは無いと思うけど、たとえ死んでも後悔しないぐらいのつもりで出て行かれたのだと思うよ」
謎の集団の捜査は徐々にですが進んでいるようで、日本ではマッソン商会と言う名の貿易会社として活動しているみたいです。もちろんマッソン商会も捜査されましたが、そこのベルモンド社長が行方不明になっているようです。顔写真が週刊誌に出ていたのでシノブに確認してもらうと。
「たぶん偽カエサルで良いと思う」
これは香坂君にも確認してもらいましたが同意見でした。問題はまだ日本にいるかどうかですが、その前に、
「偽カエサルは船にいた?」
「たぶんいなかったと思う。あの現場のボスというか、リーダーみたいなのは偽カエサルでないのは間違いないよ」
やはりあの現場にいなかった事になる。
「そうなると偽カエサルは逮捕されていないことになる」
「日本にまだいるのかなぁ、たぶん前もって出国している気がするけど」
この辺でシノブは疲れたと言って眠ってしまいました。これも良くわからないのですが、香坂君やマルコ氏に較べるとシノブの疲れ方というか、消耗の仕方は強いようです。いずれにしても今は回復を待つしか他にやれることがありません。
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