第39話 二人だけの結婚式と友人を招いた披露宴

ゴールデンウイークに入るとすぐに婚約指輪と結婚指輪を二人で買いに出かけた。


「せっかくだけど、婚約指輪は買う必要はありません。誕生日に誕生石の高価な指輪を買ってもらったのでそれでいいですから」


「連慮しなくていいから、婚約指輪は婚約指輪だから」


「私はあの時、婚約指輪を買ってもらったと思うことにしていました。だからずっと左の薬指にしていたのです。だから、これが婚約指輪です。これ以外にありません」


「あの時は男除けとか言っていたけど、そう思ってくれていたんだ。僕もあのとき恋人と婚約指輪を買いに行った経験をさせてもらったと思ったから」


「パパもそう思っていたの?」


「ああ、いい思いをさせてもらった。それならそれでいい」


それから二人だけの結婚式を挙げて写真を撮った。二人には親戚もほとんどいないので元々列席者は限られていた。祖母は高齢でここまで来ることは難しい。二人だけの方がお互いに式に集中できて思い出に残ると相談して決めた。


今でも式の日の朝からのことをはっきりと覚えている。前の晩は二人とも感極まって長い時間何回も何回も愛し合った。私はもうすっかり愛し合うことになれてきて、どちらかというと積極的になっている。


パパはすっかり疲れてしまって熟睡していた。見覚ましをかけるのを忘れて、パパが目を覚ましたら8時を過ぎていた。予約の時間は10時だった。


横で眠っていた私はすぐに起こされて、二人で身繕いをして朝食も取らずに出てきた。結婚指輪だけは忘れていないか何回も確認した。式場には10時前には到着することができた。


ウエディング衣装を着けた私はとても綺麗で可愛くなった。衣装合わせの時と比べて、やはり本番の着付けと化粧の仕方が違っていた。パパのタキシードも悪くなかった。私がこちらの方が若く見えると言ってグレーのものを選んだ。


二人だけの式が進んでいく。誓いの言葉をパパは「はい、誓います」と大きめの声で言った。次は私の番だったが、感極まって泣いてしまった。「誓うんだよね」とパパが小さな声で言うので「もちろん誓います」と言ったのを覚えている。


それから指輪の交換をした。やはりパパは緊張していたんだと思う。手が震えて指輪がうまく薬指に嵌められない。あせるとなおさら手が震える。私が見かねて右手でパパの手を支えてやっと嵌められた。


今度は私の番だ。パパが緊張して震えるのを見ていたので、それがうつったみたいで手が震えている。今度はパパが手を支えてくれた。無事に指輪の交換が終わった。


次は誓いのキスだ。ベールをあげて私にキスをする。このシーンどこかであった。セクハラを受けてキスをお願いした時を思い出した。あの時、始めは軽く唇に触れた程度のキスだったが、無理を言って3回もしてもらった。思いもかけず3回目はディープキスだった。


今回も軽く唇に触れた程度のキスだった。もちろん、私はもっと強くなんて言わなかった。涙が流れる。私はあの時のことを思い出していた。シャッターの音が聞こえる。列席者がいないので写真を頼んでおいた。


宣誓をしてから、結婚証明書にサインをした。この時はもう二人とも落ち着ていて、しっかりサインをすることができた。


式を無事終えた。婚姻届はすでに出してあったが「私たち、本当に夫婦になったんですね」とパパに言った。パパは感慨深めに頷いていた。


それから、二人の結婚写真を撮影した。私はカメラマンに「新郎が若々しくみえるように撮って下さい」と確認した。やっぱり歳の差を気にしているんだとパパは思ったかもしれない。それを聞いてもっと若々しくしてくれれば言うことはない。


結婚式の模様の写真と結婚写真をアルバムに作ってもらったものをパパは祖母に送った。祖母はすぐに電話をかけてきてくれた。


「こうなってほしいと思っていたけど願いがかないました。崇夫と潤子さんもきっと喜んでくれていると思います。早く孫の顔を見せてほしい。それまでは長生きするから」と言っていた。


私に吉村さんから手紙が届いた。パパがアルバムをこっそり吉村さんにも手紙を添えて送っておいたからアルバムを見て手紙をくれたのだろうと言った。


最初は読みたくないと思ったけど、パパが会わないのだから、読んであげたらと言うので部屋で一人で読んだ。


手紙にはママとのいきさつや私が生まれたことを知らなかったことを詫びていた。許してくれるのなら、一度でいいから会ってほしいと書かれていた。手紙からその気持ちが伝わってきて涙が出た。やっと、父親が見つかって嬉しいと思った。


部屋を出ていくと、パパが「どうだった」と聞くので「そのうちに会ってみようかな」と答えた。


◆ ◆ ◆

披露宴は会費制で、私の調理師専門学校の同期の勤めるレストランでそれぞれの親しい友人を招いて行った。


春野さんは私たちに紹介したいと歳の離れた婚約者を連れてきた。私より少し年上の可愛い女性で春野さんの趣味だとパパは言っていた。春野さんは一生懸命に彼女の世話をしていたが、お似合いの二人だった。パパの親友だけのことはある。パパと性格が似ていると思った。


あのベッドを一緒に買いに行ってくれた調理師学校の同期生でパティシエの米田さんも来てくれた。同期では川田さんが一番早く結婚したと羨ましがっていた。


ホテルの先輩の山田さんも来てくれていた。あの事件でホテルを辞めた後も個人的な付き合いは今も続いていて、既婚者なので何かと相談にのってもらっている。


私は友達に祝福されてとても嬉しかった。パパは会社の同期の連中にうらやましがられたり、からかわれたりだったけど、とっても嬉しそうに見えた。

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