第5話 ドキドキする新しい生活が始まった—まるで新婚家庭?

5時少し前に目が覚めた。もう少しで目覚ましが鳴るところだった。すぐに起きなきゃ。今日からパパが出勤する。昨晩に打ち合わせたとおりに朝食の準備をしてあげなきゃいけない。


音のしないように部屋のドアを開けて、洗面所へ向かう。ドアの内鍵はかけていない。パパはかけておくように言っているけど無視している。洗面所で歯を磨いて、顔を洗って、部屋に戻り、軽くお化粧をする。


ママと同じで私は薄くしか化粧をしない。化粧品の節約のためにそうしている。ママもそうしていた。


すぐにお化粧は終わるので、キッチンへ行って、パパの希望の朝食を2人分作る。調理する必要がないからすぐに用意できる。パパがこれまで自分でしていた朝食だから、全く手数がかからない。


時間があるからリビングのテレビをつけて、音を出さないでニュースを見る。


5時半きっかりにパパが起きてきて洗面所で歯を磨いて、お髭を剃って、顔を洗う。それから部屋に戻って。出勤時のスーツ姿になって、座卓に座って食事を始める。テレビのボリュームを上げる。


「朝食の献立、それでよかったですか?」と聞くと、嬉しそうに頷いて食べている。私もそれで安心して食べ始めた。


「ごちそうさま。準備ありがとう。僕が朝食の準備をしてもいいけど」


「いえ、私の仕事ですから」


「まるでお嫁さんをもらったみたいだ」


「そう思っていてください。やりがいがありますから」


そう言って後片付けを始めた。パパはこれを聞いてどう思ったかしら。やはり悪い気はしなかったみたい。しめしめ、作戦どおり。


「今日から昼間は一人になるけど、大丈夫?」


「大丈夫です」


「来訪者が来たらモニターで十分に確かめてから、開錠してね。セールスは来ないと思うけど、必要ありませんと言って、相手にならないこと。そうすると帰っていくから。それと部屋を空けるときは玄関の鍵を必ずかけること。いいね」


「大丈夫です」


大事なことだから2度言っておくと言って、2度も同じことを言った。このフレーズどこかで聞いた?


分かっています。私は成人した大人です。まだ、中学生と思っているのかしら。でもこれを言うのはやめておいた。よっぽど私のことが心配らしい。ありがたい。これほどまでに心配してくれて嬉しかった。崇夫パパと同じだ。やっぱり兄弟だ。


丁度6時45分に出かけた。玄関で「いってらっしゃい」というと嬉しそうに出かけて行った。


◆ ◆ ◆

6時半に携帯にメールが入った。[今、自由が丘]


聞いていたよりも1時間も早い。ということは7時前には帰ってくる。でも夕食の準備はとっくにできている。今日はシチューにした。帰ってきてから温めても十分に時間がある。


玄関ドアの鍵を開ける音がする。すぐに玄関に跳んで行く。


「おかえりなさい」


「ただいま、いいにおいがするね」


「すぐに食事にしますか、先にお風呂に入りますか?」


「それとも、わ・た・し?」と言おうとしたけどやめておいた。新婚の妻だったらそう言うと思うけど、パパには冗談でも刺激が強すぎる。


「お腹が空いているから食事にしたい」


パパはすぐに自分の部屋で着替えて出てきた。


「初めての夕食はクリームシチュウにしてみました」


「美味しそうだ」


「食べてみてください。味はどうですか?」


パパはニコニコしてスプーンで一口食べてみてくれる。


「美味しい」


「よかった。美味しいと言ってもらえて。たくさんありますからお替りしてください」


美味しかったとみえて二回もお替りをしてくれた。昼からすぐに始めて時間をかけて工夫して作ってよかった。


後片付けを手伝おうかと言われたがもちろん断った。それで残念そうにソファーで私の後片付けを見ている。


「コーヒーをいれるけど、久恵ちゃんもどう?」


「いただきます」


「コーヒーの後片付けは僕がするから」


「お願いします」


後片付けが終わるタイミングに合わせてコーヒーを入れてくれた。パパは本当に几帳面な性格だ。入れてもらったコーヒーをソファーの隣に座って飲む。とっても美味しい。そういうとパパは嬉しそうにほほ笑んだ。


◆ ◆ ◆

いつものとおり、パパに先にお風呂に入ってもらった。私が上がって冷たい水を飲みにキッチンへ行くと、パパがソファーでうたた寝をしていた。座卓の上には飲みかけの水割りが置かれていた。


いつもは晩酌をしていると言っていたけど、私がここへきてからは出勤していなかったこともあるけど、お酒は飲んでいなかった。今日は久しぶりに出勤して緊張して疲れていたんだ。でもこんなところでうたた寝をしていたら風邪をひいてしまう。


「もう寝ましょうか?」


その声でパパは跳び起きた。言い方が刺激的過ぎた? キッチンにいる私をじっと見つめて、なぜ私が声をかけたか分かったみたい。


「久しぶりに出勤したので疲れた。そうしよう」


ソファーから起き上がって自分の部屋に入って行った。

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