企業戦士超特急ブラウンライナー号
小紫-こむらさきー
進むな!超特急号―ブラウンライナー―
今にも私の
メリメリと時折音を立てているような錯覚に襲われている。
しかし、ここで安全扉を開放するわけには行かないと
そう…ここは電車の中。
しかも前日は30年ぶりの規模になる台風がやってきたおかげで、ダイヤが乱れに乱れ、数時間並んだ末にやっと乗り込んだ車内なのだ。
私の括約筋を執拗なまでにノックしている
ギュルギュルと豪快な駆動音を立てる腹を抑え、額に浮かんだ脂汗を拭う。
昨夜、あんなにアルコールを我が体内に乗客として招かなければよかった。
それだけではない。ニラとにんにくたっぷりの餃子と納豆、それにキムチも昨夜の内に我が
仕事に送れないように仮眠のように短い睡眠時間を終えて、しっかりと
台風一過の爽やかな朝だ…。そう思っていた。
しかし、なんだか腹の様子がおかしい。
柄にもなく走ったから横腹が痛いのだろうと思い込むことにした。
今思えば、これがよくなかったのだ。
走り終え、駅前についた時に見えたのは、駅改札から溢れ近くのアーケード街にまで伸びた入場待機列だ。
この時点で気配を消していた
しかし、後の祭りだ。
1時間ほど並んで、やっと待機列が動き出し、改札を潜った
脂汗が吹き出す。
改札は通り過ぎた。目の前には電車がやってくる。
「耐えてくれよ…私の
誰にともなく呟いたその声は、誰にも聞かれないままなだれ込むように電車の中へはいっていく人々の喧騒に呑まれていく。
普段ならば50分で到着する通勤コース。この痛みなら、きっと
額からは拭っても拭っても汗が吹き出てくる。
ひしめき合う人と人。
湿度と暑さのお陰でかいた汗が冷え、腹のあたりを的確に冷やしていく。
早く駅についてくれ…。あと3駅…。
「只今、列車の間隔調整により電車の速度を落として運行しております」
絶望のアナウンスが耳に入る。
カンカンカンカンと、
もう無理だ…楽になってしまおうか。
この
「す、すみません」
電車が揺れ、ひしめき合う人がいっせいに動いたかと思うと、私の背中側には小柄な女性が押し出されてきた。
なんたる悲劇。なんたる絶望。さきほどまではチャラチャラしたプリン頭のホスト崩れがいた場所に、可憐なOLさんがいるではないか。
私は再び
再び動き出したと電車は、のたのたと数メートル進んだところで止まった。
「現在、駅にて急病人対応のため、電車を停止しております。お客様には大変ご迷惑おかけして申し訳ありません」
本当だよ!と叫びだしたくなるのを耐えて歯を食いしばる。
私をあざ笑うかのように
暑さのせいではない汗が額だけではなく体中から吹き出しているような錯覚に陥る。
これはもう無理だ。会社の最寄り駅ではないが次の駅で一度降り、
プスプスと不穏な気配が
これは…水漏れだ。実が出てないからセーフ。匂いもない。
天に祈るように…吊り革に両手を置き、額を手の甲に押し付ける。
括約筋に力を入れたら駄目だ。リラックスして…しかし、なんとしてもこの
今にも先端が
小柄なその女性は、薄いグレーのサマージャケットの下に真っ白なブラウスを身にまとっている。
私の背が大きいからだろう。私の尻すぐ上のあたりに、女性の腹が押し付けられている。
インシデントが発生した際には、女性のブラウスは
まだプリン頭のホスト崩れなら…思い切りブリリと
ミリリ…と音がしたかと錯覚しそうなほど神経を集中させながら列車再会の合図を待つ。
「ながらくお待たせいたしました。▲▲行き発車いたします」
いつもは冷たく聞こえる列車の案内音声が耳に入る。
「神よ…」
思わずそう独り言を漏らしたときだった。
決して
「ふふ…会社にそんなに遅れたくないんですね」
天使の声が聞こえた。
まさか、私に話しかけたのか?と視線だけ可憐な女性へむける。すると、彼女は頬を赤くしながら笑っている。
「ははは!聞こえてしまいましたか」
「大変ですよね。早く着くといいんですけど」
はにかむように笑った彼女が首を軽くかしげると、ほんのり揺れた髪からは芳しいバラの香りが漂ってくる。
電車が揺れ、ゴトゴトと動き始めると彼女の体が私の背後に密着した。
それと同時に、目の前にいたやや癖っ毛の男性の頭が私の目と鼻の先に近付いてくる。
柑橘系のキツイ香りとコショコショとしたむず痒い感覚が鼻の穴に走る。
頭を左右に動かされ、男性の髪の毛が私の鼻の穴を刺激する。
「は…は…」
ダメだ。やめてくれ。
「
ブリュリュリュリュンブリュリュリュリュン!
豪快な発車合図と共に、私の
しかし、ここはいつものトンネルではない。
ブリュリュリュリュンブリュリュリュリュン
しかし、長時間ウンコうを停止させられていた
そのまま勢いよく
「キャアアアア」「なんだなんだ」「臭え」「肛門の脱線事故だ!」
阿鼻叫喚というに相応しい光景が広がっているのだろう。
しかし、私はそれを目にする前に意識を手放すことにした。
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