第17話「渋谷の輩」

渋谷にお客様をお送りした。


お支払いをしていると、目の前には別のタクシーがいて

それに乗ろうとしている男がいる。


ヤンキーというような、輩の風貌、

フラフラで一瞬で酔っぱらっているのが分かる。


典型的な乗せると厄介なタイプ。


乗ろうと思ったタクシーに拒否されたようでこちらへと歩いてきた。


お乗せしてきたお客様が降り切るのとすれ違う身動きの取れないタイミング、本来ならば避けるところだったが、こればかりはしょうがない。



すると男は、行き先を聞くまでもなく


男「○○わかる?」


僕「分かりますけどそのあたりは詳しい地域ではないので、」


男「はあ?知らん、〇〇分かるんだろ?」


僕「○○は分かります。その辺りは詳しくないのでまた案内を」


男「いや、いいから、行け」


僕「かしこまりました」


男「俺さっきからタクシー乗れてないからイライラしてるんだよ」


僕「あー、そうでしたか」


男は呂律が回らず、とにかく勢いで喋る。


男「あ、前乗って良い?」


僕「え、あー、まあいいですよ」


男一人しかいない状況で、助手席に乗ることを求めてきた。

断る理由が浮かばず、それを許し

後部座席の寂しいタクシーが走り出した。


「これは殴られるかもしれない」


そんな覚悟を持ってアクセルを踏む。

男一人で利用するのにも関わらず、助手席に乗って来た輩。


「これは殴られるかもしれない」

そんな覚悟を持ってタクシーは走り出した。


僕「(あ~、メンドクサイ客を乗せてしまった。しかも助手席)」


男「さっきまで、先輩と飲んでたんだよ、呼ばれて」


僕「あー、そうだったんですか!

(トラブルにならないようにするしかないか~)」


男「もう大変だわ」


僕「へー、大変だったんですね!(どうしようかな~)」


男「・・・」


僕「・・・(暴れなきゃいいけどな~)」


男「あー、酔っぱらった」


僕「お客様はいつもタクシーご利用なさるんですか?」


男「は?」


僕「タクシーにはいつも乗るんですか?」


男「はあ?これなんて読む?」


僕「(聞いてない!)」


助手席前のネームプレートを外し、名前を読もうとしている。

なかなか読める人がいない沖縄の漢字に興味を持っている。


僕「これは、ヨナシロって読みます」


男「全然読めないよ、ははは」


僕「(変なところで笑った!)」


男「読めないだろ、これ」


僕「これは、読めない方多いんですよー。沖縄の苗字で。

沖縄は行ったことあります?」


男「朝まで仕事?」


僕「(また聞いてない!)あ、そうですね、朝までです」


男「芸能人とか乗せるだろ?」


僕「お乗せしますよ~」


男「だれ乗せた?」


男はこちらの質問は聞かないが、やたらと話を振ってくる。

芸能人の話には食いついてきたことで、ここぞとばかりに話した。


芸能人の方には悪いが、男の気を良く保つために

あえて芸能人の名前を出して、テレビの印象との違いや車内での様子を

可笑しく語ると、男は猿のように手を叩き笑ってくれた。


こんな感じでいければ問題なく行けるだろう。


そう思ったのも束の間、男は急に態度が変わった。


続く


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