マジョリティ(New花金Day)

 誰かが言っていた。この時代は、誰しもがマイノリティだと。

 何かに帰属していたとしても、自分を異質だと捉え、それを悟られないように、『普通』に焦がれて演じていく。マイノリティ同士が顔色を伺いながら作る、『マジョリティ』。

 それが時代のせいでそうなったのか、元々そうであったことに気づく人が増えたのかはさておき。


 僕の彼女もまた、大分変……特殊……個性的な人だ。そして、それを『自分らしい』として誇りにしている。その前向きさと自信が、僕は好きだ。

 けれどそんな彼女も、今、『普通マジョリティ』を演じようとしていた。







「おうおう兄ちゃん、きれーなツラしてんじゃねーか。なんなら一緒に遊ばねーか」



 ーーだいぶズレているけど。

 というか、彼女のリーゼントと学ランとサングラス(全部ドン・○ホーテで買った)姿は、一体どこのジャ○プ黄金期からやって来た不良モブなんだ……。


「おいやめろよ、嫌がってんじゃねーか!」


 そこですかさず、友人の富田がノリノリで割り込んでくる。彼女は富田にガンをつけた。ーー身長足りなくて上目遣いだし、サングラスがずれてるけど。


「おい、割り込んでんじゃねーぞ。テメー、その子のなんなんだよ」

「ああ!?


 この子は俺のコレだよ!」


「小指を立てるなっ!」


 あまりの茶番にそろそろ口を挟む。


「なんだよ、『不良にナンパされているところを助けられるヒロイン』は不服か?」

「お、ま、え、に、小指を立てられるのが不服だ」


 設定とは言え俺にだって相手を選ぶ権利があっていいと思う。

 第一、関係性からしたらそこは彼女が助け……いや、論点違う。


「やっぱり学園漫画の人気者よろしく、『キャー! 中川先輩よー!』って黄色い声を挙げながら美貌を讃える役が良かったんじゃないかな、相生さんは。そっちの方が中川のキャラ的に合ってるし」


 富田が言うと、うーん、と、彼女が悩み始めた。人の顔の区別がつかない彼女にとって、美醜というのはイマイチ理解できない要素だからだ。

 一通り考えが纏まったのか、一旦リーゼントのカツラとサングラスをとり、ワントーン高めにこう言った。






「きゃー! 中川先輩、蘭陵王みたいで素敵ー!」


「すごい人物出てきたね相生さん!」



「音容兼美」と史書に明記される美声と麗貌の持ち主じゃないか。


「え、ディルムッド・オディナの方が良かったですか?」

「相生さん、また何かのゲームに影響されてるね……?」


 そう。

 僕の彼女、相生紫苑は文芸部で小説を書いている。最近では公募にも挑戦していて、そのお題が『マジョリティ』。

「特別な能力を持った主人公ではなく、ごくありふれた、マジョリティに属する主人公の物語」を募集しているらしく。

「マジョリティってなんだろう?」と、真面目な彼女は色々なマジョリティになり切って研究しているみたいなんだけど……。


「よし、じゃあ今度は、この『濃い塩っ♡』(少女漫画)に登場する、いじめっ子の取り巻き(ツインテール)だ!」

「わかりました、じゃあ中川先輩はこのヒロインを演じてください!」



 ……あのさ。

 漫画のモブ=普通マジョリティの人って訳じゃないと思うんだ。



ーー

『五分後の、あなたへ。』の、その後のお話でした。

https://kakuyomu.jp/works/1177354054923460050


マジョリティって何ですか……?

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