第24話 人間関係を考えたい

 今日もまた何事も無い一日が終わった。

 夕食を終えて大浴場で汗を洗い流し部屋に戻ると、招いていない客が俺を待ち受けていた。


「お帰りなさい♡ご飯はさっき食べたわよね?お風呂も入ってきたのよね?それじゃあ、ワ・タ・シ?」


「………………」


 俺はそれを見なかった事にして部屋の扉をそっと閉じようとした。


「だーっ!ちょっと待ってよ!!スルーしないでっ!!」


 俺の部屋に勝手に侵入して待ち構えていた兎毬トマリが扉の閉まるのを妨害する。


「何の用だよ、こんな時間に」


 俺は溜め息をつきながら部屋の中に入る。


「ちょっと確認に来ただけよ。例の計画の進捗はどんなものかなって」


「例の………ああ」


 兎毬こいつが『例の計画』と言えば一つしか無い。

 俺を使った『ギャルゲ計画』とやらだ。


「どうもこうも無い。お前も『無理に恋人になろうとする必要は無い』と言っていただろう?」


「そうよ。別に無理に恋人にならなくてもいいわ。そうじゃなくて、現時点での翔琉君しゅじんこうの気持ちはどうか、と聞いているのよ。誰か気になっているはいる?」


「いや、別に………」


「本当にぃ?」


 兎毬トマリは疑うような眼差しで俺に顔を近づけてくる。


「うっ………」


 こいつが事は別に何とも思っちゃいないが、流石に女子にここまで接近されると緊張して顔をそむけてしまう。


「まぁ………恋愛感情とは違うが、話しやすい相手ならいる。紗羽サワ寧音ネネだ。二人とも真面目だし、お前や杏奈アンナ流乃ルノのように下品な事を言わないしな」


「ふぅん………」


 兎毬トマリは近づけていた顔を離し、腕組みをして何かを考えているような仕草をした。


「まぁいいわ。それより今日は一つ提案を持ってきたの」


「提案?」


「そう!ヒロインの女の子達と順番に一日ずつデートをして欲しいの!!」


「はあ!?」


 またこいつは突然ふざけた事を言い出してきやがった。


「お前なあ!ついさっき無理に恋人にならなくていいと言ったばかりだろうが!なのに何でデートなんだ!?」


「まったく、相変わらずカタいわねぇ。カタくするのは下半身だけで………今はその話はいいわ。別に恋人じゃなくてもデートくらいするでしょ。そうね、どうしても『デート』って言葉に引っ掛かるなら、相手をよく知るための交流期間て事でもいいわ」


「相手をよく知るための交流?」


「そ。翔琉カケル君は意識的にか無意識的にか、彼女達に精神的な距離を置いてしまっているわ。そんなんじゃ相手の表面しか見えないし、知る事もできない。私は翔琉カケル君にもっと深く彼女達の事を知ってもらいたいのよ」


 そう話す兎毬トマリの目は真剣そのものだった。

 いつもふざけた事しか言わないくせに、こいつは時々こんな真剣な目で語る時があるからよくわからない。


「………深く知ると………今の印象とは何か変わるかもしれないと言うのか?」


「さあ?それはわからないけど、少なくとも恋人になるにせよ、友人になるにせよ、表面的な薄っぺらい関係にはなって欲しくないの。せっかくこの国で知り合った仲じゃない?恋人じゃなくてもいいけど、友人を目指すならどうせなら親友と呼べるくらいになって欲しいわ」


 こいつはこいつなりに俺達の人間関係を気にしているというわけか。

 そんな言われ方をされては何も言い返せなくなる。

 これではまるで俺がクラスメイトに馴染もうとしない問題児のようじゃないか。


「わかったよ………それで具体的にはどうすればいい?」


「そうねぇ、まずは順番を決めましょう。基本的には一人と一日一緒に過ごしてもらう以上の事は考えていないわ」


 そう言いながら兎毬トマリは部屋の内線電話の隣のメモ帳に順番を書き始めた。

 兎毬トマリの背後からメモを覗きこむと、次のように書かれていた。


杏奈アンナちゃん

紗羽サワちゃん

寧音ネネちゃん

流乃ルノちゃん


「この順番の理由は?」


「え?単純に『背の順』よ」


 ああ、なるほど。

 実にわかりやすい。



 何だか強引に決められてしまった感は否めないが、とりあえず明日、俺は杏奈アンナと一日過ごさなければならない事になった。

 初日から疲れそうだ。

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