第29話 食のバラエティ〜ランチにおけるサンドイッチ率

こじゃれたレストランより、うまい居酒屋の方が好きだ。


タコわさ、イカ焼き、もつ鍋、おでん……。


ビール飲みながら、ちょっとずつ、いろいろ、つまむ。


ああ、日本が恋しい。


ここではデパ地下も惣菜横丁もないので、欲望を満たすためには、手に入る材料で自分で作るしかない。


こじゃれた料理にも興味はないから、私の料理は、素材重視、大量生産、おばちゃんのつくる『男の料理』が基本。


おでんもカレーも鍋いっぱい、どーん。

餃子、100個作り置き、どーん。

とんかつ、ヒレ3本分、小分けで冷凍、どどーん。


塊の肉しか売ってないので、先日とうとう手動のスライサーを買ってしまった。

これで、焼肉、焼きそば、お好み焼きの手間が一新。


うひひ。


こちらで外食といえば、友人とのおしゃべりがメインなので、バーに行くことが多い。


そして、バーのメニューなんぞ、どこ行ってもたいした違いはない。


ピザ、バーガー、フィッシュ&チップス、サンドイッチ……。


そもそも、カナダの外食にバラエティを求めなくなっている自分がいる。


そのかわり、一時帰国の折には、基本的に、絶対的に、盲目的に『日本でしか食べられないもの』限定で、食べ歩く。


うなぎ、お好み焼き、焼き鳥、ほっけの塩焼き……。


いろいろな食材、料理を求めるのは、小さい頃から、いろんなもの食べて育っているからなのだろうか。


片や、ここカナダ。


以前、小さな町で学童の先生をやっていたとき、夏休みは、朝から夕方まで子どもを預かるので、昼食は子どもたちと一緒に弁当を食べていた。


子ども達の弁当箱を覗くと、


サンドイッチ、サンドイッチ、サンドイッチ、サンドイッチ、サンドイッチ、サンドイッチ、サンドイッチ、サンドイッチ、サンドイッチ、ピザ、ピザ、その他1。


その他1は、たいてい、うちの子だ。


そのサンドイッチも、ほぼほぼハム&チーズサンドイッチ。


「よっしゃー!」とガッツポーズの子は、冷凍ピザ。

「イェーイ!」ピーナッツバター&ジャムのサンドイッチの子も嬌声を上げる。いつもは、ピーナッツバターか、ジャムのどちらかひとつだから。


「毎日、毎日、サンドイッチでよく飽きないなあ」と、思っていたけど、たぶん、飽きてる、あれは。


お腹すいて目の前に弁当あるから食べてる、という感じで、お腹が満たされればそれでいい、弁当なんてそんなもの、という捉え方のようだ。


ある日、みんなで昼食を近くの公園でとった。


その日の息子の弁当は、タッパーにつめただけの焼きそば弁当。それを隣に座った白人の女の子がサンドイッチを食べる手を止めて、じっと見つめていた。


しばらくして、その子が一言、「それ、なんだか全然わからない食べ物だけど、ものすごくいい匂いで、おいしそう……」なかばうっとりした顔つきでそう言った。


やっぱりサンドイッチ以外のものも、興味あるんじゃん。


息子は気にもかけず、一心不乱に焼きそば食ってたが。


その保育園、兼、学童の施設で、クリスマスパーティをするから、「先生はなるべく一品持ち寄ること」と言われてしまった。


私は持ち寄りパーティに呼ばれるたびに、カリフォルニアロールを持って行く。


なぜなら、まちがいなく人気だから。


でも、今回は子どもがメインの『クリスマス』パーティ。


クッキーやケーキが人気だけど、辛党の私はお菓子なんざ焼いたことない。


さんざん迷った挙句「アボカドの緑と、カニカマの赤で、クリスマスカラーだから、いいんじゃね?」と、無理やりこじつけ、結局、カリフォルニアロールを持ってくことにした。


持ち寄り用のテーブルにそっと置いて、さっさと逃亡。


娘はクッキーや甘いお菓子と並ぶ、異質なカリフォルニアロールが気がかりのようで、はけ具合を偵察しに行っては報告に来る。


「ママ、すごい勢いでみんな取ってってる」

「ママ、園長先生が、男の子たちに、もうこれ以上取るなって怒ってた」

「ママ、一番先にうちのカリフォルニアロールなくなっちゃったよ」


結果、大人気。


そういや、日本食レストランで昔働いてた時も、若い白人一家の常連さんのまだ小さい娘さんが、いきなり白飯に味噌汁をぶっかけ、いわゆる『ねこまんま』を美味しそうに食べていた。


私の視線に気がついた、親御さんが恥ずかしそうに、「この食べ方が好きなのよ〜」と困ったように教えてくれた。


私が思うに、カナダの子どもにも『いろんな食材にチャレンジする』というポテンシャルはあると思う。機会がないだけで。


でも、別にいろんなものが食べられることが幸せとも限らないし、知らなきゃ知らないでもいいのか、とも思う。


いろんな食材、まんべんなく食べてるうちの子より、ぜんぜん体でかいしなあ、みんな。



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