第22話 英語の成績〜ずっと赤点ギリギリだったんだぜ

久しぶりに、盛大な口ゲンカをしてしまった。


住んでいるアパートの管理事務所のオババと。


息子の手術で、当分の間、私が抱えて助手席から車椅子への移動をしなければいけないので、一時的に私の駐車場からすぐ近くにある来客用の身体障害者用の駐車場に停めさせてくれないか、と頼んでみたのだ。


身体障害者用の駐車場は2台分あって、私が知る限り、違法駐車以外にはほとんど使われていない。


しかし、答えはノー。


あくまでも来客用なので、住人は一時的に停めても、本来の場所に移動しなくてはならない、とのこと。


そうか〜。


一旦は引き下がったものの、車を止めて、障害者用の駐車場の隅っこに車椅子の息子を残し、自分の駐車場に移動して、慌てて戻ることを数日間行ったら、思った以上に、手間がかかるし、息子が視界から外れるのが何気に怖い。


あっちこっち慌ただしく移動している間も、あいかわらず常に空っぽの障害者用駐車場。


「さすがにこれは、おかしくないか?」


日本にいた頃なら、お上に言われたら大人しく引き下がっていたかもしれないが、ここは自己主張してなんぼのカナダだ。


私は、管理会社の賃貸部門の総合部署に状況をメールした。


すると、次の日には連絡がきて、あっさり『特例としてOK』とのこと。


イエーイ。


やっぱ、主張するときはするもんだな。

これで行ったり来たりから、解放される。


そしたら、例のオババから電話が入った。


「駐車場は危ないから、息子を自宅に置いて、自分の場所に移動しろ」と。


……は、な、し、が、ち、が、う〜。


そもそも、息子から目を離せないから頼んでいるのに、家に息子ひとり残して出かけるのは本末転倒なのだ。


ここで私の怒りスイッチ、オーン。


喧々諤々の言い合いの末、最終的には、オババが折れて、特別の駐車場の使用許可証を発行してくれることになった。


ま、その後も、ゲスい私は、事の顛末をジェネラルマネージャーにさらりと、チクっといたけど。


私が怒ったときの英語力は二割増し。


いつもなら、電話で話すのが怖くて怖くて、なるべくメールかメッセージにしてもらったり、留守電にメッセージ残すのさえ、グダグダなのに、もう、立て板に水で罵る、罵る。


いやあ、人間の潜在能力の凄さよ。


火事場のバカ力とはよく言ったもんだ。


そんな私の日本での英語の成績は常に赤点ギリギリ。

もう、短大卒業するまで、ずーっとその状態。


それなのに、東京で仕事についてから「……なんか、外国人と話してみたいかも」と唐突に思い、まずは英語学校に通った。しかし、ちまちま、ちまちま、なんとも進みが遅いから、とっとと資金を貯めてアメリカに渡って実践で学ぶことにした。


びゅーん。


アメリカでも一応、英語学校通ったけど、それより、ホストマザーのおばちゃんと、学校でのゴシップ話を身振り手振りで報告したり、他の留学生と他愛の無いできごとを怪しい英語で話してる方が、がぜん楽しい。


だもんで、結局、きちんとした文法とか、読み書きを学ばずして今に至る。


職種が肉体労働系ITなので、きちんとした長い文章を書くことはあまり必要ないから、ものすごい簡潔な質問&答えの応酬で日々なんとか乗り切っている。


「これはこれであっているか? イエスかノーで答えよ」的な。


ちゃんと英語の授業聞いときゃよかったよ。

中学、高校、短大と、トータル8年もすっかり無駄にしてしまった。


教科書の余白にびっしりと落書きしてる場合じゃなかったなあ。


面談で高校の英語の先生に、「今までの人生で、ただの一度も外国人と会ったこともないし、英語が必要だと思ったことがないから、勉強する必要性がまったく見出せません」と、まっすぐな瞳で答えた、そんな甘酸っぱい青春の思い出。


先生ごめんなさい。

私が間違ってました。


しかし、思えば遠くに来たもんだ。


特別な思い入れもなく東京に出て、英語喋れるようになりたいから、とアメリカに渡り、帰国後、カナダ関係の仕事にありつき、元旦那と出会い、日本語が話せない元旦那の世話と、子どもの世話、フルタイムの仕事、と、忙しすぎてやってられん、と心機一転カナダに移住。


……本能のままに生きている。


で、今となっては、毎日英語の日々。

田舎の女子高校生だった頃には、予想だにしなかった未来。


子どもの頃、『カナダからの手紙』が流行ったけど、まさか、自分がカナダ在住になるとは。


でも、そろそろ、まじめに英語の読み書きに取り組まなければ。


子どもの方が、発音がいいのは仕方ないとしても、語彙も喋りも、だいぶ引き離されてきた。


息子に、平静を装って「で、その単語の意味なんだったっけ?」って聞くの、なんか情けないんだよな、最近。




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