【旧】中年おっさんサラリーマン、異世界の魔法には賢者の石搭載万能パワードスーツが最強でした ~清楚幼女や錬金術女子高生と家族生活~

ひなの ねね

序章 2019年

0.0000000916785237の可能性を読み取る獣

 また白昼夢が私に問いかける。


 吉祥寺の井の頭公園を歩くセーラー服の少女は眩暈を覚えて壁に手をつく。


 彼女の目に見えるのは黒い流星と白い流星だ。


 空中で何度も激突しながら、二つの流星は吉祥寺の駅方面へと落ちていく。


「や、やすまなきゃ」


 公園内の野外ステージ前の椅子へ、腰かけて額を抑えながら目を瞑る。今は昼過ぎなのに夜の風景が重なる。


 瞼を閉じると宙で不規則にぶつかり合う二つの流星が鮮明に確認できた。


 一人は頭からつま先まで真っ黒な鎧で、全身に身体よりも黒い光を放つラインが見て取れる。


 もう一人は対照的に頭から足の先まで白く、全身に光り輝くラインが通っている。


 まるで映画のカメラを渡されたように少女は気になる箇所をクローズアップできた。


 二人が拳をぶつけ合うたびに、周囲の景色も徐々に変化する。


 吉祥寺の駅前は巨大なお城へ、商店街のサンロードは布で張られたテントが立ち並ぶ。


「なにこれ、いつもより見える——」


 白い甲冑が黒い甲冑の一撃を受けて、地面へと叩きつけられると、その反動で地面は石造りの煉瓦道へと変わる。車は馬車に、人は貴族や町人のような服装に。


 いつもは流星が激突し、昼と夜が交わる程度だった。だが今日はそれ以上に鮮明に見える。そう彼らの声すらも。


「——シエロ!」


「生きる目的もない、向かうべき道も自分で決められない——そんな者が、極彩色の魔女を連れる権利はない」


 白と黒、どちらが話しているのか分からない。だが黒い甲冑の横には真っ白なローブに身をつつむ幼い少女がシャボン玉みたいなシールドの中で静かに佇んでいる。


 白い甲冑は怒っている。全身全霊をぶつけて、黒甲冑脇の少女へと懸命に手を伸ばしているようだった。


「私には目的がある。目的は進むべき力。人の意思は向かうべき方向が定まれば、収束され、全ては私の望むままに運命は絶えず味方する」


 黒い甲冑は夜空一杯に細かい魔方陣を作り出し、巨大な悪魔の手や巨人が持つような剣、見たこともないほど多きい火球など呼び出し、白い甲冑へと一斉に放った。


 白い甲冑は応戦するように宙へ次々と細かいミサイルや重火器の類を展開して迎え撃つ。


 少女には武器も魔術もよく分からないが、異なる文明がぶつかり合っているのは理解できた。


「運命を味方に付けられず、世界も敵に回したお前が、私に届く道理はない」


「シ、シエロ——おおお!」


 先ほどの攻撃を全て耐えきった白い甲冑だが、耐えているのがやっとだ。


 黒い甲冑の頭上には、見たこともない文字列が次々と現れ、全身に緑色の雨を降らせる。


 白い甲冑はところどころの装甲が剥がれながらも、満身創痍で立ち上がり夜空へと手を伸ばす。


「逃がさない、お前だけは。必ず」


しかし彼の手は届かず、黒い甲冑は一度彼を見て、文字列の中に少女と消えた。


「運命が導けば現代で会おう、義贋総司郎」


黒甲冑の姿はなく、残された言葉も霧散した。


「つっう!」


 目の奥が焼けるように熱く疼く。


 涙目になりながら、少女はハンカチも取り出さずに空を見上げた。


 井の頭公園の空はいつものよう木々が遮り、鳥が羽ばたく。 先ほどまで見ていたファンタジー世界とは到底結びつかない。


 少女は唇に手を当て、空を仰いだ。


「黒い流星、白い流星、それと極彩色の魔女——?」


 口に出すと自分が夢見がちな少女みたいで恥ずかしくなり、頬を赤らめつつ帰路に就いた。

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