第2話
7月。夏休みの真っ只中。
一彦は大きなリュックサックを背負い道路に足を踏み入れた。
暑い。外へ出た途端ムッとする空気が身体を包み込んだ。
足を一歩進めるたびに頭から汗が垂れてくる。
目的地に着いた頃には汗でダラダラになっていた。
ーーー大橋 鈴。鈴の家。二階建ての一軒家だ。
一彦はインターホンを鳴らしてみた。やはり全く反応はない。あと何回か鳴らしてみたが、家には何の気配もなかった。
家をぐるりと回って庭の方から家の中を見ようとしたがどの窓もカーテンが閉まっていた。
予想通りではあったが、少し気落ちして溜め息をついた。
再び玄関まで回り次に行わなければならないことに心を傾け始めた。
次にやることは決まっている。
鈴の父親は鈴が幼い頃に亡くなっている。母親が行方不明になったのは去年の冬、12月。
鈴の14歳の誕生日の前日だった。兄弟はおらず鈴は母親と2人で、ずっと母子家庭で育った。
鈴は特別美人という訳ではないのだろうが、笑うと光がさしたように周りも明るくなる気がする。
鈴はどちらかというと大人しい方でクラスでも目立つ方ではない。
しかし決して誰にもそのような感じなのではなく一彦には何のためらいもなく話すし、何人かの友達にもそのように話しているのを何度か見たことがある。
きっと、ある程度時間はかかるが気の合う人とは自分を出すことができるのだろう。
一彦とは自分の体裁を気にすることのない幼い頃からの付き合いだから壁を感じることなく接っしているのだと思う。
しかし鈴は母親がいなくなってからは、まるで魂を抜き取られたかのようだった。
何を聞いても大した返事は返ってこず、何をしても腑抜けの様。
しかし、一彦も周りの人もどうやって関わればいいのか分からず、その年はそれから何事もなく終わった。
それから何ヶ月か経つと鈴も普通に戻っていき、一彦もようやく心の整理がついていった。
しかし、まだ鈴の心はまだ普通ではなかった。
6月28日から鈴が行方不明になった。
おそらく母親を探しに行ったのだろう、というのが警察の見解だそうだ。
母親と鈴の捜査は続いているが全く反応はない。
一彦は居ても立っても居られなかったが、学校を休んで探しに行くわけにはいかない。
なんとか夏休みまで待ち、両親が近所の商店街の福引き券で当てた温泉旅行へ行っている間に一彦は鈴を探しに行くことにしたのだ。
しかし、とりわけ鈴が行きそうな場所を知っているわけではない。
行き先のない旅が始まるのだ。
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