第3話
一五〇〇襲撃事件から三年。
モモンガ、いや鈴木悟はふと時間の流れを感じて思い返す。
仕事は相変わらず忙しかった。でも、生きがいとすら言える趣味、ユグドラシルのおかげでリアルの煩わしさの中、なんとか頑張ろうというモチベーションを維持することができた。それ自体はけして悪いことではない。薄給で長時間労働ではあるが比較的安全で安定した仕事。このご時世、学の無い自分の経歴を鑑みて、底辺でありながらリスクを減らすことができるのだから悪くはない。
しかし、最近ではリアルよりも趣味のほうが問題を抱えるようになった。
ーーユグドラシルの過疎化
もちろんゲーム人口の移り変わりは当たり前のことで、新技術、新アイディア、新テイストを組み込んだ新作が発売されれば、ユーザーはそちらに流れる。作品の魅力がどれほどあろうとも、移り変わりというものがある。
ユグドラシルの過疎化。ユーザーの総数は減り、新規ユーザーもごく少数となっていた。公式イベントも昔ほどの人が集まらず盛り上がりに欠け、毎週・毎月のように行われていたユーザーイベントもほとんど無くなった。なによりガチ勢といわれ、規模を誇った強力なギルドがどんどん解体、または規模を縮小している。
そして過疎化はモモンガのギルド、アインズ・ウール・ゴウンにおいても例外ではなかった。一時期四十一名いたメンバーも、今では半数を割り込んでいる。さらに、いわゆるアクティブと言われる高密度でログインするプレイヤーは十人にも満たない。
いまだに保有されるワールドアイテムの数々や、最盛期に勝るとも劣らぬ堅牢なギルドの防衛網のため、Wikiや攻略サイトでは伝説のように名は残っている。しかしギルドランキングにアインズ・ウール・ゴウンの名が乗ることもない。
公式イベンドに参加して楽しむには十分だが、昔のような大暴れのようなことはできない。
もちろん、鈴木悟もギルメンとして、このゲームを去ったギルメン達の事情は知っている。仕事が忙しくなったものもいれば、このゲームにモチベーションを維持できなくなったもの、家庭の事情が変わったもの。それぞれ、いろんな理由でやめていった。
鈴木悟は、「人それぞれの人生だから」とやめた理由に優劣は無いと理性の部分が考える。
しかし、鈴木悟の理性や社会道徳といった薄皮を一枚剥き、現れる感情は酷くいびつなものであった。
「なぜ、みんなで作り上げたナザリックを捨てられるのか」
キレイな言葉で言えばこんなものだ。裏を返せば厳しい家庭環境、生活環境から生み出された、家族や仲間という「自分を受け入れてくれる環境」への強い依存である。鈴木悟の中で、アインズ・ウール・ゴウンというコミュニティは家族に変わる、自分を受け入れてくれる場であり、ナザリックとはそんな仲間と作り上げた象徴である。
ゆえに、その場を去るモノへの慟哭や後悔が後をたたない。
ーーああ、こんなはずではない。仲間と共に歩めた運命はあったのではないか
その根底は、永劫に回帰することを望むような現在の否定。
だから、いまごろになって忙しいといって後伸ばしにしていたこと。NPCの作成に鈴木悟、いやモモンガは手をつけたのだった。もっともそれは在りし日の楽しかった思い出の残滓を探そうとする行動に等しかった。
******
モモンガの作るNPCの設定は、三年前に最低限決められていた。
ただ当時は何かと多忙だったモモンガを気遣い、ギルメンたちは防衛に一切参加する必要のない役割を与えた。
宝物殿の守護者
ナザリックの財政面の管理者
そもそも、ギルドメンバーのみが持つ指輪による座標指定転移でしか入ることができないナザリックの宝物殿。さらに、ノーヒントの暗号門の向こう側。普通の襲撃戦では見つかることさえない場所だ。
そんな場所の守護者としてNPCを、しかもレベル一〇〇という最高級のNPCを配置することは、もったいないという意見もあった。しかしモモンガはなんだかんだと良いギルドマスターであった。仲間と良く話し、面倒な意見を折衷し、個性が強すぎる四十人を率いる姿はギルメンに信頼されていた。その結果が、レベル一〇〇NPC作成の権利とワールドアイテムの個人所有であった。
さて、いざモモンガはNPCを作ろうとして迷った。
まったくイメージが浮かばないのだ。そもそも、クリエイティブなことを苦手としているモモンガである。感性に任せてなにかするより、総当たり的かマニュアル的に対応するのが性にあっているのだからしょうがないのかもしれない。
そんなわけで円卓の間でウンウンと悩んでいた。
「こんばんわ~ってモモンガさん。おひさ~」
ちょうどその時、二週間ぶりにInしてきたペロロンチーノがモモンガに声を掛けたのだ。
「おひさです。ペロロンチーノさん。もう仕事はおわりました?」
「一応棚卸し完了。今日、明日はがっつり休んで来週からまた地獄が新スタートですわ」
「はは、大変ですね」
ペロロンチーノも久しぶりのInで親友に会えたことで嬉しそうに話す。なによりもモモンガは親友の楽しそうな声を聴いて先ほどまでの陰鬱とした感情がなくなったことに気が付く。相も変わらず現金なもんだとおもうが、小さな幸せで満足できると考え腹の底に放り込む。
「そういえば、なんか悩んでたみたいなモーションしてましたけど、何かあったんですか?」
「ああ、放置してたNPCを作ろうかと」
「おお、やっとですか」
ぺロロンチーノはオーバーアクションで驚く。
「実際のところ、作るのめんどくさがって実は作らないんじゃないかって賭けしてたんですよ。みんなに連絡しておきますね」
「ちょっ。そんなことしてたんですか?」
まあ、そんな軽口をたたきながら、ペロロンチーノがいろいろ脳内の引き出しをあける。うん十分にアドバイスできそうだ。
「とりあえず、俺たちの時とちがって、配置する場所は出来てるわけなんですから、そこで考えてみては?」
「そうですねってNPC制作手伝ってもらってもいいんですか?」
「そりゃあもちろん。モモンガさんの手伝いってなかなかありませんから」
ペロロンチーノは他意はなく、純粋に親友の力になれればと答える。モモンガもそんなぺロロンチーノの心意気を純粋に喜ぶ。
「じゃあ宝物殿にいきましょうか」
「了解」
そういうと二人は宝物殿に転移するのだった。
もっとも、そんなやり取りの一部始終を壁際で控えていた一般メイドは見ており、瞬く間にナザリック中に広がったのだった。
******
ペロロンチーノの提案
【そういえば軍服がかっこいいっていってましたよね。基本はそれで……】
【以前貸したエロゲ―のラスボスいたじゃないですか。軍服キャラで金髪の……】
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