第8話
眼前の敵は幸いにも、目が曇っている。なら、刺し違えてでもぺロロンチーノ様にあだなすものを一人でも多くコロスことができる。自分のHPはすでに四分の一もない。ゆえに最後の札を一気に切る。
「(
声にならぬ声で叫ぶ、己が眼前、敵視界を遮るように分身を生み出し特攻させる。同時に自分の最後の枷を外し、血の狂乱に身を任せる。ぺロロンチーノ様が美しいと言ってくださった姿は醜く変わり、白魚のような手足はやせ細り枯れ枝のような化け物のそれとなる。
「こいつヤツメウナギか!」
エインヘリヤルの猛攻の中、こちらを警戒していたプレイヤーが叫ぶ。しかし、すでに遅い。
警戒を忘れたプレイヤーにシャルティアは飛び掛かり、鎧ごと噛みつく。その咢は鎧を突き破り、相手の血を奪う。強引にでも振り払おうとするプレイヤーだが、いちど組み付かれたが最後、引き離すことはできない。周りの二人もシャルティアに攻撃を当て吹き飛ばそうとするが、絶妙に邪魔をするエンヘリヤルに手を焼く。
「(すでに、後がないならせめてこいつらだけでも)」
シャルティアの猛攻は、三人のプレイヤーが息絶えるまで続く。それと同時にHPゲージが0となり、シャルティアはまるで最初からそこにいなかったように掻き消えるのだった。
******
ナザリック地下大墳墓 第五層 氷河
スズメバチの巣をひっくり返したような形の構造物を中心に巨大な水晶が立ち並ぶ。氷河フロアの中でも数少ない構造物であり、一番目立つ巨大な人工物である。
その入り口の前でコキュートスは武器を氷雪の上に刺し、敵がここに押し寄せてくるのを待っていた。
守護者として、プレイヤーにはデバフとダメージ、そして視界不良を与える吹雪の中、フロストウルフやフロスト・フラウが襲い掛かるように指示をだしている。そもそも魔獣を操る同僚と違い、自分は戦術を考えることはできるが、随時指揮をとるスキルは持ち合わせていない。
ゆえに、随時指示が必要ないよう部下たちを鍛え上げ、敵へのヒット&アウェイを徹底させた。そして狙うはただ一つ、突出する敵を集中して叩け。それを守ったモンスターたちは今、吹雪や雪原に隠れ、プレイヤー達を一人一人確実に削りコロしていた。
「敵が侵入して三〇分。そろそろかの」
「ワカッタ」
フロスト・フラウの言葉を受け、コキュートスは立ち上がり武器を取る。
コキュートスには広域感知系スキルも魔法もない。しかし、魔法的な感覚でも、先鋭化したおのが五感でもない感覚で、敵が近付いてくることを捉えていた。
「シャルティアヤ、ガルガンチュアノヨウニ、一体デモ多クノ敵ヲ殲滅セヨ」
「はっ」
周りに控えたフロストフラウ達はコキュートスの命令を受け深く礼をする。
コキュートスは一回だけ振り返る。
いわば囮。
しかしコキュートスは疑問を持たない。むしろ、ここでコキュートスが善戦すればするほど、敵はここに本当のゲートがあると考える。
「セイゼイ華麗ナ囮トシテ、散ッテ見セヨウゾ」
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