第76話 第二試験終了

 スピードに乗った焔はものすごい速さでロックイーターに近づいていく。



 流石、100%の力出しても疲れがこない。しかも、いつも以上に一歩がでかい気がする。これなら、力緩めることなく行ける!



 焔は集中力を高めた。それは先ほどまで無謀だと嘆いていた男だとは考えられないもので、その目はしっかりと自分が倒すべき相手を捕らえていた。


「おいおい、いきなり全解除かよ」


 レオは呆れたようにポツリと言葉を吐いた。呆れていたのにも理由があった。その理由はハクによって明かされる。


「まあ、今まで受験者でいきなり全解除してた人は軒並み負けてるからね。己の力を過信しすぎたか? 青蓮寺焔……」


 厳しい目でモニターを見るハクに、シンはすぐに言い返す。


「それは違う」


 ハクはシンの方へ目を向ける。ハクだけでなく、他の教官たちもチラリとシンに目を配る。


「過信なんて言葉、焔が最も嫌いな言葉だし、俺も大嫌いだ。全解除したのは一種の覚悟みたいなものだろう。AIに諭され、過去の自分への戒めすら忘れてしまったのが、相当腹が立ったみたいだね。だから、ここで自身を追い込むことで、もう一度決別したいんじゃないかな。過去の自分と」


 皆はその説明を聞くと、再びモニター画面を見る。だが、シンは心の中で自分の説明にいちゃもんをつける。


(なんてね……本当はここまで信頼してくれたAIにその選択は間違ってなかったと、圧勝することで証明したいからだろ? 全く、君は本当に他人のためじゃないとやる気出ないんだから。さあ、ここまでカッコつけたんだ……負けたらシャレにならないからな)


 シンの手にも自然と力が入った。焔のことを信じていたが、やはり手に汗握るものがあった。


 焔は徐々にロックイーターとの距離を縮めていく。すると、ロックイーターにも動きがみられた。腕を伸ばし、掌を焔の方へ向けた。その瞬間、掌から巨大な岩が生成された。



 なるほど。あれが飛んでくんのね。遠いからわかんねえけど、2,3メートルってところか。当たったら即終わりだな。



 焔は更に気を引き締めながら、トップスピードで向かって行く。


「もうすぐで、距離100メートルに到達します」


 AIの通達があった直後、ロックイーターの方角からある音が聞こえだした。それは、AIの言っていた通り、空気を吸収しているような音だった。掌に空気を集めているのだ。そのことを確認した焔は全身に力が入る。



 さあ、こっからが本当の勝負だ。瞬きすんな! 足止めんな! ビビんなよ! 全部避けて、最速を維持しろ!



「100切りました。来ます!」


 音が止む。だが、その静寂はほんの刹那だった。物凄い爆発音と同時に岩は焔の元へ飛んでくる。


 岩はわずかに放物線を描きながら、両の掌から同時ではなく、片方ずつ飛んでくる。AIの情報通り、スピードはそれほどなかったが、その大きさゆえに焔は大きく避ける。


「まずは1つ」


 総督はモニターを見ながら、ポツリと呟く。


 続いて、時間差でもう一方の岩が飛んでくる。それもまた避ける。が、気づいた時にはもうすでに次の岩は生成されており、そして放たれる。


 その間隔は焔が予想していたよりも短かった。先ほどより岩の大きさは小さくなっていたが、その分速度は増していた。焔は素早く反応し避ける。


 それから、ロックイーターによる一方的な攻撃は加速する。岩の大きさは徐々に小さくなっていく。それに比例し速度は増していく。だが、焔は臆することなく、最小の動きで交わしていく。


 20メートル付近まで近づいた時、とうとう避けきれなくなったのか、焔の顔面に石ほどの大きさになった岩石が飛んでくる。


 その光景に息をのむ教官たち。その中で猫目の男だけが不敵に笑う。



 カンッ!!



 直撃しようかと思った寸前、焔の剣が見事にロックイーターの攻撃を弾く。そこから驚いたのも束の間だった。5回ほど攻撃を弾いた焔は次の攻撃が来る軌道、タイミングを確認した瞬間、強く地面を踏み込み腹に力を入れ、強く叫ぶ。


「AI!!」


 その言葉を合図に最大出力にしたエアブラストブーツは一気に焔を加速させた。加速する瞬間、剣を両手に握り、体の横に持ってきて、体を小さく縮めた。


 ……そして、気づいた時にはモニター画面には上空に高く飛び上がる焔と、首が切られたロックイーターの姿が映っていた。


 その様子を見ていた総督、そして教官たちは皆固まったまま動けずにいた。一方、高く飛び上がった焔は高度を下げていき、勢いよく地面に着地する。すると、AIの声が空間上に響く。


「ロックイーターの生体反応消失。討伐を確認しました。ミッションコンプリートです。焔隊員は直ちに帰還してください……お疲れさまでした」


 剣の光は消え、焔は腰に装着していた鞘にゆっくりと剣をしまった。


「ふー……お疲れさん」


 最後に焔は笑顔を見せ、その場から消えていった。


「あの加速した直後……敵の懐まで入り、止まることなく、もう一度エアブラストブーツで蹴り上がるように上空へ飛び上がり、そのまま首を掻っ切った……か。蹴り上がるタイミング、方向をあの高速移動の最中に見て判断したというのか……ハハハハ!! 面白い!! 面白いぞ青蓮寺焔!!」


 総督が大きな声で笑う中、教官たちも思い思いに話し始めた。


「普通あんな攻略方法思いつくか?」


「ハハハ、思いついたとしてもやらないかな」


 レオとシンは批判混じりに焔を称賛する。


「ねえねえ。焔知ってたのかな? ロックイーターは敵が近づいてきたら、急所の首隠すって? だからそれやられる前に、一気に近づいたんでしょ?」


「いや、AIからその情報は聞いていなかったはずだ。与えられた情報でそういう可能性も十分考えられると思ったんだろう。青蓮寺焔。こいつは中々見所のある男だな」


 ペトラの問いに、ヴァネッサは自分の考察を述べた後、焔に興味を示したように笑う。一方のシンは目をつむりながら、その話を聞き、満足そうに笑っていた。


 教官たちが喋っている中、総督は何やらデスク前で作業をしていた。


(さて、焔だが、ランクBを単独で撃破したこと、討伐時間はたったの30秒、傷一つ負っていないこと、そしてたったの一撃で倒したこと、他もろもろ、AIとの連携を差し引いても……)


「フッ……第二試験、合格者13名。1位通過……青蓮寺焔」


 ポツリと呟いたその言葉を焔が知るのはまだまだ先であった。

 

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る