第33話 体育祭

 2学期が始まり、早一週間。徐々に夏休みの余韻からも覚め始めたころだ。


 新しい特訓の弾避けの方はもうコツを掴んで連続して避けることができるようになった。て言っても全然当たるけど。銃弾は見えるっちゃ見えるけど流石に撃たれてから反応するのは無理だった。1回やってみたらでこに直撃した。ゴーグルをしてるからって、ためらいもなく顔を狙うかね? 普通。


 これは反射神経もそうだが、集中力がかなりいる。俺にとってはうってつけの特訓と言うことだ。


 と、そんなことはさておき今俺はかなりめんどくさい状況の中にいる。


 今、体育祭の種目決めをしている。1つを除き、全ての種目はだいたい決め終わった。


 最後に残ったのがクラス対抗リレー。いつもなら適当に中盤ぐらいのところで走らされるんだけどな。


 今俺はアンカーに推薦されている。最初は蓮が自ら立候補していたが、龍二が俺を推薦した。そこから多数決をやった結果、俺の方が圧倒的に多かった。男子は全員俺を、女子もほとんどが俺のことを選んだ。


 まあ、自分でもこうなるんじゃないかと思っていたけど。50メートルでは5秒台をたたき出し、クラスマッチでも結構活躍したからな。あと何より男子は蓮のことが嫌いだし、女子も嫌いな奴の方が多いからな。


 で、今は蓮がグチグチ御託を並べているところだ。それをクラス中のやつらがうんざりしながら聞いている……そんなところか。


 はあ、うざい。もういいや。


「あ、俺アンカーします」


 クラスからは安堵のため息と同時に大きな舌打ちが聞こえた。


 まさか生きているうちにアンカーなんてすることになるなんてな。ま、もうありえないことが起こりすぎているから今更動じないけど。



 ―――種目決めは終わった。結局蓮は最初の走者になった。本人は全然納得してなかったけど。龍二はその姿を見て、顔を隠しながらニヤニヤしていた。俺が走る直前の走者は綾香になった。自分から立候補していたが、こんなにイベントごとに熱心だったっけ? ま、いいか。


 俺が出る種目は全部で4つ。障害物競走、2人3脚、綱引き、クラス対抗リレー。


 2人3脚はくじ引きで決まった。相手は絹子だ。正直身長も似ているから助かった。160㎝台の人とはちょっと肩が組みずらいからな。


 なぜこの種目を選んだかと言うと放課後練習がないからだ。放課後はほぼ直帰しないといけないから。大縄跳びとか台風の目とか騎馬戦とかは放課後残らないといけないから敢えて選ばなかった。


 2人3脚は絹子に無理を言って本番ぶっつけってことにしてもらった。絹子もそっちのほうが面白いってことで許してくれた。やっぱり絹子は人とは少し感性がずれてるな。


 帰りのホームルームが終わり、俺は早々に帰ろうとしたが蓮に呼び止められた。


「おい焔。俺と勝負しろ」


 おー、怒ってる怒ってる。


「勝負って言うのは200メートル走のことか?」


「ああ。俺が勝ったらアンカーの座を譲れ」


「別に良いよ。その代わりお前が負けたらもう俺にちょっかいかけるのは止めろ」


 こんぐらいの条件がないとこいつとわざわざ勝負なんてやる意味ないからな。


「上等だよ!! なめ腐りやがって!!」


 見せてやるよ。お前がダラダラ部活をして女を侍らしている間、俺がどれだけ死に物狂いで自分を鍛えたのかを。



 ―――「ハア……ハア……ハア……!!」


 200メートルを走り切り蓮は手と膝をつき地面を見ながら息を切らしていた。


 正直言って、滅茶苦茶圧勝だった。流石に自動負荷装置ありでやったら分からなかったが、なしなら絶対に蓮に抜かれることはないと思っていた。


「そんじゃ、約束通りもう俺にちょっかいかけるなよ」


「ま、待て!! あれだ……まだ体が温まってなかったんだ。だからもう一回だ!! 俺がお前なんかに……」


 予想はしていたが、相変わらずめんどくさいやつだな。


「なら聞くけど、体が温まったらさっきの俺とお前の差を埋めることができるのか?」


「そ、それは……」


「……時間の無駄だ。俺はお前とは違って忙しいんだ。お前みたいに努力もせず、言い訳ばかり並べるやつが毎日毎日努力を積み重ねているやつに勝てるはずがない。そんなことあってたまるか……だから、俺は絶対にお前に負けない。悔しいなら、御託を並べる前に努力をしろ。そんじゃ」


 蓮は何も言い返すことができず、悔しそうな顔を見せると下を向いて、しばらく地面とにらめっこしていた。


 少し言い過ぎたかな。ま、これまで耐えてやったんだからこんぐらい良いか。


 焔は蓮をそのまま残しそそくさとグラウンドを後にした。


 これで蓮からのねちっこい悪口もなくなるのか……最高だな。


 帰り道、焔は鼻歌混じりに自転車をこいでいた。



 ―――9月の末。体育祭当日。日の出も遅くなり、朝のランニングも少し時間をずらし5時半からとなった。


 いつものように頂上にはシンさんが待っていた。


「やあ、焔君。そろそろ寒くなってきたね」


 俺は岩場に座り水を飲んだ。


「ああ、そうですね。走ってる最中もそんなですけど、走り終わってしばらくすると段々寒くなってきますね」


「ところで今日は体育祭だったね」


「はい」


「今日は自動負荷装置は外しといていいから。存分に楽しんでくるといいよ」


「そんじゃ楽しんできますね」


 正直けっこう楽しみだ。クラスマッチの時もそうだったが、仲間と一緒に全力で何かに挑むってことはやっぱり楽しいからな。今までは本気なんて恥ずかしくて出せなかったのにな。本当にシンさんには感謝しかない。


「よし!!」


 休憩が終わり焔は岩場から立ち上がった。


「じゃ、焔君。頑張るんだよ」


「はい」



 体育祭本番。



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