第16話 地球外生物対策本部
「え? 地球外生物対策本部? えっと……わけがわからないんですけど……」
「まあそうなるよね。取り敢えず、詳しい話をしたいから、近くの喫茶店にでも行かない?」
怪しい。怪しすぎるけど……好奇心の方が勝ってしまった。俺は承諾し、近くの喫茶店に入った。
俺たちは向かい合うように座った。俺の正面に猫目の男、その隣に筋肉質の男と。二人はコーヒーを頼んだ。俺はカフェラテを頼んだ。飲み物が到着し、二人はすぐにコーヒーを口にした。一方、俺は机の上にあるガムシロップを二つカフェラテにぶち込んだ。それを見て、猫目の男がニヤニヤ笑ってきた。俺も何か恥ずかしくなってきた。猫目の男がコーヒーカップを置くと、改まって話し始めた。
「自己紹介がまだだったね。俺はシン。改まって言うと、地球外生物対策本部戦闘部隊特殊教官の
「ま、教官つってもこいつはなんもしねーけどな」
横から筋肉質の男が不愛想に割って入ってきた。
「んー……まあ、何も言い返せないけど。で、このゴリマッチョの不愛想男が地球外生物対策本部戦闘部隊体術教官のレオ・ジャクソン。みんなはレオって呼んでるから。君もそう呼ぶといいよ。ちなみに俺のことはシンでいいよ」
「は、はあ。というか先ほどから口にしているその『地球外生物対策本部』ってなんですか?」
「ん? そのままの意味だけど」
「というと……地球外の……生物を……その……やっつけたり、捕獲したりする……みたいな?」
「当たらずも遠からじ。だが、おおむね正解って感じかな」
さっきまで改まって話していたのに、今ではニヤニヤしていた。この人は本気で言ってんのか、それとも俺をおちょくってんのか。でも俺をだますメリットなんて一切ないけど……だが、どうにも突拍子もない話過ぎて、到底信じることができなかった。
「うんうん。全然信じてないね」
「……ばれました?」
「うん、まあ普通はこんな話すぐに信じることなんてできないと思うけど……ていうかレオ達っていつもどうやって説得してんの?」
すると、レオという男は軽く舌打ちをし、少しキレ気味でシンという男を睨みつける。
「あのなー、俺は口に出さないっていう約束だったろ!! 教官だったら、少しは自分と考えろ」
「えー。堅いこと言うなよー。俺こういうの初めてなんだから教えてくれよー」
おいおい。この人たち本当に何なの……こっちが緊張して損したわ。
言い合いは終わったらしく、結局シンという男が負けたみたいだ。10秒ほど悩んでいたが、急にパッと顔を晴らしたかと思うと、訳の分からないことを聞いてきた。
「焔君、今行きたい場所とかある? どこでもいいよ。一瞬で連れてってあげるから」
「え? 一瞬でって……え!?」
何馬鹿なこと言ってんだ!? と思い、レオという男の顔をちらっと見たが、まったく表情を変えてなかった。え、この人おかしいこと言ってるのに何で表情一つ変えないの!?
まじなの!? 行けるの!? 一瞬で!? 嘘だ~……と思いながらも、期待を込めて。
「富士山の山頂」
「オッケー!! じゃ、早速」
そう言うと、シンという男は耳元に手を当て、しゃべりだす。
「AI。今すぐ富士山の山頂に転送してくれないか?」
「例の子の件についてですね」
「そゆこと」
「わかりました。……座標確認。転送準備に入ります。10秒後に転送開始します」
え? ちょっと待って……転送!? え? どゆこと!? まさかテレポートってこと!? そんな技術、地球上ではまだ発明されてないはずだ!?……ということは本当に。
「あ、あの……転送って言うのは一体!!」
「あー、後でね。もうそろそろ始まるから」
すると、シンという男の耳元からAIという女性の声が聞こえた。
「転送準備が整いました。転送開始します」
すると見る見るうちに足元から体が消えだした。
「え? え!? どういうことですか!? シンさん!? 足が……俺の体が!!」
すると、シンさんは俺をなだめるように手を振った。
「大丈夫大丈夫。体がなくなってもちゃんと感覚はあるだろ?」
「え?……言われてみれば、確かにちゃんと地面に足がついている感覚が……」
「ま、すぐわかるよ。それと留守番よろしくレオ」
「フッ……さっさと行ってこい」
「はーい」
そんなこんなで、俺の体は首から下がすべてなくなってしまった。どんどんと顔まで迫ってきた。俺は怖さのあまり目を閉じた……しばらくたってから、冷たい風が顔に当たったのを感じた。俺は恐る恐る目を開けると、驚きのあまり、開いた口がふさがらなかった。
なんと、本当に富士山の頂上にいたのだ。いや、富士山には一度も行ったことがなかったから、実際にここが本当に富士山なのかわからなかったが、確かにここはさっきいた場所とはまるっきり別の場所だということはわかった。
俺はおもむろにポケットから携帯電話を取り出し、現在の位置情報を確認する。結果は本当に富士山の頂上だった。まじかよ……こんなことができるなんて……てことはやっぱり……。
「どう? 少しは信じてもらえた?」
「ハハ。これは少しってレベルじゃないと思いますけどね……わかりました。信じます。あなたが言ったこと全て。こんなことができるなんて、今の地球上の科学レベルでは到底できませんからね」
「そゆこと。俺たち組織の科学技術は全てある宇宙人のものだからね」
「そうですか。地球外生物対策本部……すごいですね。この分だとまだまだすごい技術もいっぱいあるんでしょうね」
「そうそう。まだまだいっぱいあるんだよ。例えば、さっきの」
「その前に、一つ聞いていいですか?」
「良いよ。ドンと聞いてくれ」
「……なんで俺なんですか? 何で俺がこの組織に必要なんですか? 俺弱いですよ。戦闘に関しても素人ですし。レッドアイに勝ったのも、シンさんの助けがあったからで。それに宇宙人と戦ったりするんですよね? もしかしたら死ぬかもしれないんですよね? 俺嫌ですよ。死ぬの怖いし。それに俺」
「あーあーあー。ごちゃごちゃうるさいな」
さっきまでのシンさんの口調とはまるで変っていた。
「お前は自分のことを弱いと言うが、だったらなぜあの時、お前はレッドアイに立ち向かうことができたんだ。死ぬのが怖いとか言いながら、なぜあの時、死に物狂いで戦うことができたんだ」
「……」
「君は自分が思っているほど弱くないよ。むしろとっても強いと思うよ。あの恐怖の中で立ち上がれる人はそうそういないと思う。そしてあそこで君が動いていなければ、確実に君のクラスの女子たちは体にも心にも深い傷を負うことになっただろう。そして、レッドアイもその娘さんも救うことができなかっただろう」
次第に拳に力が入る。
「君がいたから皆を助けることができたんだ!! 君が皆を助けたんだ!! 君は自分の身を投げ出してまで他を守ろうすることができる強い男なんだ!!」
止めてくれ。それ以上は……
「俺が君を推薦した理由はただ一つ。レッドアイという自分よりも格上の相手にも臆することなく、友を守るため、命がけで立ち向かうことができる強い男だからだ。大丈夫。身体的な面や技術的な面は俺がみっちり鍛える。だからどうか俺たちの力になってくれ。俺たちには……君が必要なんだ」
俺は、山頂から見える景色を見つめた。
「本当に……俺なんかが使い物になりますか?」
「ああ」
「俺でも……地球を守れますか?」
「ああ」
「もう……大切な友達に辛い思いをさせたくないです」
「ああ」
「もう泣かせたくないです」
「ああ」
「……俺、ヒーローになりたいんです。ずっと前からの夢でした」
「ああ」
「でも途中で諦めてました。俺なんかがなれるはずがないと」
「ああ」
「でも、もう一度本気で目指してみようと思います」
「わかった」
「シンさん……俺入ります。入って、絶対どんな人でも助けられるようなヒーローになります」
「ああ。お前ならなれるよ。青蓮寺焔」
ああ、憧れって怖いな。そして勿体ねーな。せっかくの富士山山頂からの景色だってのに、なんかぼやけて良く見えねーや。
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