異世界双子合体ゲスオーガ(タイトル詐欺)
和邇田ミロー
一.大空に舞う(落下)
今五時五十分。だいぶ暗くなってきた。
荷物は残り一つ。配達予定時刻まで後五分。
電動アシスト自転車のバッテリーがへたったせいで、予定より遅れそうだ。
(しょうがないな!)
ハンドルに固定したスマホのマップで、住宅街の中の近道を選択した。ほんとは会社から止められてるんだけど。
下り坂を飛ばす。近づくコーナー。その外側、崖の下が公園らしい。
向こうから自動車の走行音も聞こえないし、ヘッドライトの光も刺してこない。
(対向車なし!)
スピードを緩めずバンクしてコーナーに突っ込んだ。
世界が傾くこの感じが好きだ。気分は、低空を突破するF-14のドライバーだ! 脳内ではあの映画のテーマが鳴り響いてる。
(!)
コーナーの向こうに小さな光が二つ並んで現れた。猫が飛び出してこっちを向いたのだと気付いた。
(やばい!)
なんとか避けようとした結果、タイヤが滑って転倒した。猫はぴょんとはねて逃げた。良かった。いや良くない。
アスファルトと擦れた側の足と腕が熱い! と感じる間もなく、俺は自転車ごとガードレールに衝突した。タイヤがポールに当たって自転車が跳ねるように立ち上がり、ガードレールの外に投げ出された。
こういう時、時間がゆっくりになるってのは本当なんだな。
さっき俺が滑った所に血が付いてる。ああ、こすった所、見たくねえ。
下は公園。高さは5、6メートルくらいあるかな。
茂みに落ちれば助かるかも。あ、駄目だ。上を通り過ぎちゃった。
その先は、砂利が巻かれた堅い土か。これは助からないかも。
俺が死んだら、親父はどう反応するだろう。やっぱり面倒くさそうに悪態をつきながら対応するんだろうか。
お袋はどうかな? 泣くかな。泣くとしても、やっぱりバカ食いしてるんだろうな。
これをきっかけに二人が仲直りとか、まあしないよな。
俺の葬式になんて、来る奴いるのかな。そもそも葬式も出ないか。
ああ、荷物どうしよう。発見した人が早く届けてくれないかな。でないと、せきに
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蛇?
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暑い。
熱い。
痛い。
目を開く。
何度か瞬きして焦点が合うにつれて、ぼやけた視界が鮮明になってくる。
俺は、見知らぬ部屋に寝ていた。
いや、確かに全く見覚えは無いんだけど、竹で組まれた丸太小屋のような壁や天井の趣に、全くの違和感と、どこか馴染んでいる、二つの感覚が自分の中に同居していた。それに戸惑いながら、もう一度目を閉じて頭の中を整理する。
俺、落ちたよな。絶対死んだと思ったけど、そうでもないらしい。で、担ぎ込まれてる、と。どう見ても病院じゃない。
普通の家か。いやいやいや。こんな竹組の普通の家ってあるか? 東南アジアならまあ分かるけど。でも今は変わった家が趣味の人もいるからなあ。
今は春だからいいけど、冬は寒いだろうなあ。いや、夏も冷房が使えないから厳しいか。てか今暑い! 背中が痛い。ベッドじゃない。床の上か。そしてゴザの上か。
なんで病院じゃないんだ? ちょっと家の先で倒れてましたってレベルの怪我じゃなかったはずだけど。
そういや、家の人はいるのかな? 辺りを見回そうとすると、
「あぐあっ!」
全身を激痛が走り、妙な声が出てしまった。そして同時に、全身何箇所も布で巻かれていたり、添え木を当てられている事も分かった。
「気が付いた?」
女の声がした。女というか、女の子というか、微妙な所だ。でも声は可愛い。いい事だ。
声の主は、すぐに視界に入ってきた。
(え?)
木工の急須か水差しみたいなのを手に持ってる。いや、それは別にいい。
麻袋みたいなざらざらした青い布地の服を着ている。まあそれもいい。
かなり日焼けした感じの、褐色の肌。明るい栗毛か濃い金髪。サーファーか(偏見)。いや、顔立ち自体がちょっと日本人離れしていて、本当に東南アジア系か、少なくともハーフっぽい。いやまあ、それも置いておこう。
ビックリしたのは、顔には何箇所か赤や青のペイントがされていて、なんだかサッカーのサポーターか、リオのカーニバルにでも参加してきたかって感じ(これも偏見)。
それと、そのペイントに隠れてるけど、頬に傷がある。そういや腕にも包帯みたいに布が巻かれてる。
素顔が可愛いかどうかよく分からない。超美人って事はなさそうだけど、目もきつそうだけど、うん、多分、俺の好みだ。
「ちょっと、聞こえとー?」
その子の目がもっときつくなった。
そういえば、だ。もっと大問題があった。今彼女が言ったのをそのまま表すと、
『レペ、アンギュラ、テー?』
だ。日本語じゃない。オヴァル語のガラント方言だ。
だがそれを俺は、『ちょっと、聞こえてる?』と言う意味だと、すぐに分かった。どういう事だ?
っていうか、オヴァル語? ガラント方言? 日本語にすると、博多弁っぽい? 俺別に方言に詳しくないし。 えせ博多弁だけど。イメージでお送りします。
「大丈夫? 頭、しっかりしとー?」
また聞かれた。
「あ、ああ」
とりあえず答えると、彼女は安堵したようだ。
「喉、乾いたやろ」
水差しを差し出す。確かに、喉はカラカラだった。大人しく吸い口から水を飲む。
うまい!
まあそんなに冷たくはなかったが、もう水だってそれだけで最高にうまかった。最後まで飲み干すと、彼女は安心した様子で近くに腰を下ろして胡坐をかいた。
あ、彼女の服、下はスカートとかじゃなくて、パンツって言うよりズボンって言うか、海賊みたいなダボっとしたやつ。見えなかった。いや、見ようとしたわけじゃないぞ。
とりあえず一息ついて、俺は考える。
ここは病院でもない。それどころか現代日本とも思えない。
俺は、一体どうなったんだ? 思い出そうとする。そして気付いた。
俺には、ここに至るまでの記憶が、二つあった。
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