第481話奈良小旅行(3)春日大社から東大寺に

麗の一行は、春日大社の長い参道を歩き、南門に到着、宮司の出迎えを受ける。

麗は、ここでも丁寧に挨拶。

「九条麗と申します」

「突然参拝を思いつきましたのにも関わらず、宮司様にお出迎えされるとは、本当にありがたいことと」

宮司は、にこやかな顔。

「いえいえ、麗様、春日様もお待ちです」

「ここが故郷と思って、いつでも何度でも、お越しください」

そして、そのまま、宮司により、国宝の本殿まで案内される。


宮司自らが由緒の説明を始めた。

「最近は式年遷宮などもあり、美しく塗り替えもしました」

「ご祭神は四柱になります」

「第一殿の武甕槌命様、第二殿の経津主命様、第三殿の天児屋根命様、第四殿の比売神様の順に並ばれております」

「奈良朝のはじめ、平城京鎮護のため、まず武甕槌命様を鹿島、今の茨城県から 奈良春日御蓋山頂に奉遷して祀られておりました」

「それから数十年後に称徳天皇の勅命により、左大臣藤原永手らが現在の場所に神殿を創建して、さらに香取、今の千葉県の経津主命様と大阪の枚岡神社から藤原氏の遠祖天児屋根命様と比売神様の四柱を併祀したのがその始まりとされています」


麗たちは、ここでは無言で参拝。

その後は、数多い摂社、末社にも参拝し、内侍殿に入る。

麗は宮司に感謝する。

「貴重な経験をありがとうございます」

宮司はにこやかな顔のまま。

「大旦那様からも、話を伺っております」

「今後の京の街だけではなく、一族の要になるお方と」

麗は、「重荷」と思うけれど、慎重に返す。

「宮司様をはじめとして神職、巫女様たちの、守り続ける苦労もあると思います」

「それから奈良の街衆の協力、ありがたいことです」

「本当に感謝の言葉しかありません」

宮司

「近年は、日本人だけではなく、諸外国からも、多くご参拝されます」

「世界遺産の関係もあるのでしょう」

「確かに、相当数見かけました」

「京都にも多いと思ったのですが、この奈良にも多いようで」

宮司

「ただ、歩く場所は、ほぼ同じエリア」

「東大寺の大仏殿、春日大社の本殿くらい」

「春日大社でも、参道と本殿程度、至近の若宮様にはほぼ、歩きません」

「東大寺でも、二月堂、三月堂、戒壇堂までは行きません」

「それは、外国人観光客だけでなく、日本人も」

「旅行雑誌やネットの情報に乗っていれば行くけれど、そんな感じでしょうか」

「信仰ではなく、観光の一環」

宮司は、表情を少し崩す。

「春日の神は、おおらかな神でして、一度でも参拝されれば、その人を忘れない」

「たとえ、その人が春日様を忘れても、春日様が忘れません」

麗は、やさしい顔になる。

「私は、忘れようがありません、むしろ、春日様に尽くすべき立場かと」

「なるべく近いうちに、燈篭を奉納させていただきます」


宮司との話は、そこで終わり、そのまま東大寺方面に向かう。

春日大社の境内を一旦出て、三笠山を右手に見ながら歩く。


葉子が麗の隣を歩く。

「麗様、お疲れでは?」

麗は苦笑。

「平凡な話しかできなかった」

三条執事長

「いや、過不足なく、立派でした」

「やはり神様の前です、それが大切かと」


途中、手向山八幡宮にも参拝。

そのまま、二月堂、三月堂の前に出る。


ただ、麗は、そのまま二月堂にも三月堂にも、入らない。

小さなお堂、四月堂に入って行く。

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