第452話ジャズライブ会場にて

吉祥寺の料亭での夕食を終え、麗と葵は、小さなジャズライブの会場に入る。

受付では、キチンとしたスーツ姿の若い男女が2人、麗と葵に頭を下げる。


葵は少し説明。

「京都出身の演奏家です」

「当然、私たちの身分も」

麗は、今さら仕方ないな、と頷く。

ただ、長居はしない、途中で出ようと思う。


用意された席も、ライブ会場の中でも特等席。

テーブルも椅子も、高級感のあるもの。

また、既に会場に入っている聴衆も、比較的落ち着いた服装の大人が多い。


「演奏家は二人、いたってシンプルです」

「ギターとフルートだけなので」


麗がステージに目をやると、二人の演奏家が出て来た。

男性がギターを持ち、女性がフルートを持っている。


葵が小さな声。

「麗様はジャズを?」

麗も小さな声で答える。

「問題ない、好きな部類」

「嫌いなのは演歌だけ」

葵は、少し笑う。

「それ、うちと同じです」


ステージの男女が、聴衆に軽く頭を下げ、演奏が始まった。

一曲目は、名曲「マイファニーバレンタイン」。

ギターもフルートも、しっとりとした情感で聴衆を魅了する。


麗は思った。

「ドラムもない、ピアノもない、シンプルだけれど」

「一音一音、フレーズの回し方が上品な感じ」

「フルートのアドリブも、深みがある」


葵は、少しずつ、麗に近寄る。

麗の反応が実は不安だった。

麗の音楽の力量もセンスもすごいと、茜やお世話係たちから聞いている。

その麗の反応が弱いものなら、誘った自分の失敗になるのだから。


「マイファニーバレンタイン」が終わった。

大きな拍手を受けて、二曲目に入る。

ボサノヴァの名曲「波」であるのは、すぐにわかったけれど、途中からフルートのアドリブが進む。


麗がぽつり。

「すごく上品で、海の風、波の音、鳥の声まで聴こえて来るような」

「いい演奏家たちです」


この言葉で、葵は肩の力が抜けた。

ますます麗に身体を寄せ、思わず、ありがとうございます、言ってしまう。

すると麗は、驚いた顔。

「私が演奏しているわけではないので」

葵は、答えない、そのまま麗の手を握る。


その後は、バッハをジャズ風にアレンジした曲、フランス風サロンジャズ、面白いのはカウントベイシーの名曲を、ギターとフルート用にアレンジしたものなど、様々に続いた。


コンサートの第一部が終わり、休憩時間に、ようやく葵が口を開く。

「何より、麗様とコンサートでご一緒がうれしくて」


ただ、麗は軽く頷くだけ、そのまま入り口まで歩き、花束を受け取っている。

麗は葵に説明。

「さっき、スマホで花束を注文しました」

「楽屋に届けます」


葵は、麗の対応が、またうれしい。

「気配りの人やなあ・・・九条麗様から花束をもらえるなんて、京の人のすごい励みになる」


さて、楽屋に花束を届けた麗は、二人の演奏家と歓談。

京都九条家への招待までして、感激されている。

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