第349話隆を病気に追い込んだ原因

翌朝になった。

麗が目を開けると、涼香の笑顔。

「いろいろと、わくわくしまして」

麗は、なかなか声が出ない。

房事のためか、身体の芯の疲れも感じる。

しかし、そんなことを言ってはいられない。

また、朝の新幹線で東京に戻らなくてはならないのだから。


その後はお世話係たちとの混浴を経て、大旦那、五月、茜との朝食。

都内への出発の挨拶をして、全員の見送りを受け、三条執事長の運転で京都駅へ。

京都駅では、葵が改札口で待っていた。

葵は明るい笑顔。

「おはようございます、また一週間一緒です」

麗は頷き、奈々子と蘭、花園美幸の姿を探すと、三条執事長。

「奈々子さんと蘭さん、花園美幸さんは、少し前の新幹線で」


麗は、少し安心した。

蘭がいないことには、つまらなさを思うけれど、これで昨日聞いた茜の話を考えることができると思った。

そして、新幹線に乗り込んで、すぐに寝たふりをして、その話を考え始める。


「つまり、香料店の隆さんは、恵理と結に、相当酷いことをされ、言われてきた」

「どんな高い香料も、一切代金を支払わない」

「それが恵理は結婚以来、一度も払わなかった」

「結は、香料を使うようになってからとか」

「少しでも金額のことを言うと、ヤクザが脅しに来る」

「しかたなしに、隆さんが晃さんに言い、大旦那が支払ってきた」


麗としては、ここまでは、恵理と結の行状からは、想定できる話。

大旦那も、恵理や結と揉め事を起こしたくない、香料店に迷惑をかけたくないから、黙って払ってきたのだと思う。


ただ、茜の話には、先があった、

「恵理が、隆さんのちょっとしたことに、難癖をつけた」

「スーツの色合いが地味過ぎるとか」

「すぐに深く謝らなかった、着替えて出直さなかった隆さんに激高」

「まあ、いつもの常軌を逸した激高や、クスリでもやっとんたんやろ」

「とにかく、相当な無礼を、地下の分際で、宮家の人間に対して行ったと」

「だから、取り壊しをする」

「和風香料店なんて、時代に会わん」

「全て観光客用の土産物店にする」

「それも全て、隆の非礼が原因と、どれほど謝っても許さない」


麗は思った。

「隆さんは、繊細な性格、言われると言い返せない」

「人はいい、でも、オロオロとするばかり」

「小さな頃から、隆さんが虐められるのを見ていられなかった」

「だから、俺が、隆さんをかばって、前に出た」

「そして、酷いことを飽きるまでされるのは、俺だった」

「隆さんは、それを泣いて見ているだけだった」

「その姿は・・・奈々子と一緒か」


茜の言葉を思い出す。

「それは数百年も続く香料店や」

「それを、ちょっとしたことで、しかも自分の責任で取り壊され」

「隆さんが大旦那に言って、恵理と結が一旦は、おさまったけれど」

「あの恵理と結の性格や、どうせ繰り返す」

「大旦那が、屋敷を離れている時は、まさにやりたい放題やし」

「そんなこんなで、隆さんは、意気消沈、胃に穴も開いて」

「食欲なんて・・・とんでもない」


麗は、そこまで考えたり、思い出して目を開き、車窓から外を見る。

「全然知らない街とかに、いきなり一人で住んでみたい」

「何もする予定はなくても、そこから考えて何かを始めるほうが面白い」

「都内は、いいけれど」

「京都に戻れば、後始末やら何やらだ」

「しかも九条後継となれば、自分勝手な言動はできず」


結局、目を開けても不機嫌な麗ではあったけれど、気がついたのは葵が自分を見ていること。

「葵さん、私、変な顔しています?」

「ごめんなさい、無愛想で、お話もせず」


葵は、麗の「謝り言葉」には、首を横に振る。

涼香も、麗に身体を寄せた。


葵が、小さな声。

「みんなで支えます、お支えしたくて」


麗は、想定外の言葉に、返事が見つからない。

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