第302話高輪の新居での夕食 佳子の期待

麗は、白金高輪から迷うことなく、高輪の新居に帰ることができた。

門扉も玄関も、全て顔認証で開く。

「なかなか、すごいものだ」と素直に納得して、玄関に入ると、佳子が本当にうれしそうな顔。

「麗様、お疲れ様でした」

「先にお風呂になさりますか、お食事も準備は整えてありますが」


麗は、その笑顔に少し引く。

「この会話は、新婚夫婦か?」

そう思うけれど、すぐに風呂に入る気にはならない。

風呂に入れば、佳子は湯女として入って来ると思うし、求められれば「期待」に応えなければならないと思う。

「本来は自分から求めたほうが、佳子は喜ぶのかもしれない」と思うけれど、そこまでは少し恥ずかしい気がする。


麗は、それよりも、一旦座りたかった。

「はい、まずは食事をお願いします」

それほど腹が減っているわけではないけれど、一旦落ち着いて座りたかったのが本音。


その麗が食卓に着き、少しすると食欲をそそる香りが漂ってくる。

良質なバターやチーズの香り、濃厚なブラウンソースの香りが渾然一体となっている。

その香りの中、佳子は手早く違う料理を運んでくる。

新鮮な野菜に生ハム、チーズ、黒胡椒のシーザーサラダ。

魚介のトマトスープ。

おそらく、この屋敷の備え付けの窯で焼いたばかりの白くて丸いパン。


さて、食欲をそそる香りの料理は、大きなドリアだった。

これだけは手で運べないらしく、ワゴンで持ってきてテーブルの上に、ゆっくりと置く。


佳子は、驚くばかりの麗に、またうれしそうな顔。

「九条屋敷で、特訓してまいりました」

麗は、「俺のために、ここまで?」と思うけれど、まずは食べることが期待に応えることと思った。

佳子が手際よく取り分けてくれるので、「いただきます」と手を合わせ、素直に食べ始める。


それでも佳子は、不安そうな顔になった。

「麗様、どうでしょうか、お口に合いますでしょうか」


麗は、懸命にドリアを飲み込んで答えた。

「いや・・・こんなに美味しいドリアは初めてで」

「味付けから何から、食べるほどに食欲が増します」

麗の答えに、佳子はホッとした顔。

「ありがとうございます、特訓の成果が出たようです」


実際に、スープやサラダ、パン、レモン水から珈琲に至るまで、麗は文句がつけようがないほど美味しい。

おそらく、先週の直美に相当細かく麗の味覚を分析されたのか、と思うけれど、実際に美味しいので、それはそれで喜ぶべきことと考える。

そもそも、九条家の入るまでの、一日おにぎり二個の生活と比べれば、比較にもならない話ではあるけれど。


佳子も麗の食欲がうれしいようで、しっかりと食べている。

「うちは・・・食べ過ぎると、太るような」

麗は、「そう言われても」と思うので、答えようがない。


佳子は、真面目な顔で質問してきた。

「麗様は、太っているとか、女性の体つきとか、気にされます?」

麗は、困った。

「あまり・・・よくわからなくて」


佳子は、クスッと笑う。

「そういえば、今朝は九条屋敷のお風呂で、お世話係全員と」

「そこで、見なかったのですか?」

その質問で、珍しく麗は、顔が赤くなる。

「いや・・・もう・・・見ている余裕がなくて」

「目のやり場に困っていて」


佳子は、また笑う。

「裸のお姉さまばかりで?」

「気にせんと、今さら」

麗は、また答えに詰まる。

「そう言われても、恥ずかしいことには恥ずかしいので」


佳子は、そんな麗の赤い顔が、可愛くて仕方がない。

「とにかく土曜日の朝までは独占や」

「たっぷり可愛がってもらって、うちも可愛がる」

再び食べ始めた麗を見ながら、佳子の身体の奥は、すでに反応が始まっている。

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