第231話引っ越し直前の奈々子、蘭

引っ越しを明後日の土曜日に控え、奈々子は九条家の不動産部の麻友と相談をしている。

奈々子

「明日は、吉祥寺で一泊して、当面の生活に必要なものを揃えます」

「家具類、衣服、電化製品を含めて」

麻友

「今のお住まいに置かれてあるもの、動産の類は、一旦、こちらで全て引き取ります」

「どうしても、と思われる場合があると思いますので、京都の倉庫に一定期間、そうですね、2か月くらいは保管します」

奈々子

「なるべく近所には内緒にしておきたいので、よろしくお願いいたします」

麻友

「はい、当社も個人情報になるので、厳守いたします」

「それから、明日は蘭様も御一緒ですか?」

奈々子

「そうですね、蘭の買い物もありますので」

麻友

「私も、買い出しには、対応します」

「何かと大変ですので、お手伝いいたします」


奈々子は、少しためらう。

「いえ・・・そこまでは・・・」

「申し訳なくて・・・」

麻友は、声を明るくする。

「いえ、大旦那様のご厚意で、引っ越し資金を預かっております」

「かなりな額で、全て使い切れと」

奈々子は肩の力が抜けた。

「ほんま・・・何から何まで・・・」

「一度、お礼に出向きます」


麻友は、その話を補足する。

「麗様のご意向も入っています」

「麗様が、大旦那様に引っ越しのお礼を言われて、それから、動産の九条不動産倉庫での預かりや、引っ越し資金までに」


奈々子は、脚が震えた。

涙も出て来た。

「そうですか・・・麗が・・・いや・・・麗様が・・・」

麻友

「ほんまです、何も心配なく、お引越しを」

奈々子は、完全に涙声。

「何も言わない子で・・・いや・・・麗様で・・・」


麻友は声が明るい。

「いえ、言葉は多くないのですが、本当に的を得ていて」

「お考えも深く、私たち関係筋から、京都の街衆まで、心待ちにしている状態」

「大学一年生なのが惜しいとか、早く卒業して京の街へとか」



奈々子と麻友の話が続く中、蘭は美里と話をしている。

「麗ちゃん、いや、麗様の取材はどうだった?」

美里

「はぁ・・・勉強になったし、すごいよ、麗様は」

蘭は意味不明。

「すごいって何が?」

美里

「九条財団で、うちも京都の香料店も引き取って、九条香料店とするとか」

「財務は安定する、九条の名前で客も入る」

「その分、また勉強を深めるんやけど、気合入るよ」

「へえ・・・マジに、別世界だなあ・・・」

美里

「相変わらず無表情だけど、少しだけ肉がついたよ」

「お世話係の効果かな」

「うちも安心したよ、それだけは」

蘭は複雑。

「お世話係かあ・・・私が出来るわけがなし」

美里は即答。

「関係筋の娘さん、つまりお嫁さん候補に次ぐ格式のお家が最低条件」

「それに加えて、料理にしろ学問にしろ、相当に優秀でないと、選ばれん」

「元お世話係の五月さんかて、実は相当な家柄や」


蘭は家柄で、黙ってしまった。

何としても、「犯罪者の血を引く娘」が、重い。

ただ、蘭が知る「犯罪」はイタリアのフィレンツェでの麻薬事件限り。

麗の実の両親殺害に、蘭の実父が関わったことは、把握していない。



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