第227話麗は、一人考える。京都九条家は麗を楽しみに待つ。

最寄の久我山駅についた麗は、そのままアパートには戻らなかった。

「一人になりたい」と思い、少し前に見つけた喫茶店に入った。

カウンター前の席ではなく、テーブル席に座った。

とにかく、目の前に人を見たくないというのが本音だった。


注文したコロンビア珈琲を飲みながら、様々思う。

「人間嫌いの俺が、実に厄介なことばかりだ」

「入学したての二週間ぐらいが、一番自由だった」

「それが高橋麻央に声をかけられて、面倒なことに」

「九条家のこともある。実に重い立場で」

「それだって。俺自身が望んだわけではない」

「宗雄と奈々子は・・・知らん・・・」

「蘭は、こっちに来たら、話くらいはするかな」


九条財団に誘った佐保のうれしそうな顔を思い出した。

「佐保さんだけ、苦しませておくことも、できない」

「仕事場も神保町から九段下に変わるだけで」

「あの九段事務所の余計な経費を削れば、彼女の人件費はすぐに出る」

「ほぼ売れないような雑誌は廃刊、売れている雑誌に統合」

「広告費も見直せる部分が多々あるかもしれない」

「京都人特有の、しょうもないお付き合いで出しているものは、内容や九条家への貢献度合いを吟味して、カットする」


そこまで考えて、麗は少し反省する。

「ホッとしようと思って、また余計なことを考えている」

「これだから、胃が痛くなる」

「とにかく、ぼんやりとすることだ」


麗が一人で、珈琲を飲んでいる時間、京都九条家では、大旦那、五月、茜が話をしている。

大旦那

「麗は、おもしろいな」

「慎重やけど、物事をしっかり見抜く、やり手や」

「あの香料店を二つとも、九条で引き取るなど、考えもせんかった」

五月

「別に赤字会社を引き取るわけやなし、九条家も晃さんも瞳さんも、損はありません」

「むしろ、そのほうが、いろんな試みができます」

「晃さんも言うとりました、香料店に喫茶コーナーをこしらえて時代和菓子をとか」

大旦那

「そうなると菓子職人も、ますます気合が入る」

五月

「麗様は九条財団の財務資料も読まれてたとか?」

大旦那

「ああ、わしも、任せきりやったけど」

「あらためて麗に指摘されると、確かに無駄が多い」

「削っても影響が無いものは削る、その分を有効な対象に投資したいとか」

「当たり前や、死に金など作る必要はない」

茜が不安を言う。

「ただ、九段事務所の高橋さんは機嫌を壊すのでは?」

「少しだけ財務資料を見ただけで、そんな指摘をされて」

大旦那が首を横に振る。

「いや、そうやない」

「むしろ、喜んでおった」

「ずっとマンネリで、やっとった仕事を、指摘されて」

「本家の指示で削っていいことになれば、その分、仕事が楽になる」

「広告料もそうや、ただお付き合いで出してくれるだけを期待して、しょうもない記事しか書けん奴らには、ええ薬や」

「もっと京都と日本のためになる記事に、出すべきや」

「助かりましたとか、麗には、心底担当理事をお願いしたいとか」

五月も頷く。

「商売人としては、売れない物を、どれだけ作っても面白くない」

「できれば、売れるものを作って売りたい」

茜も、それで落ち着き、笑顔

「はよう、麗ちゃんの顔が見たい」

「また何を言い出すか、面白くて仕方ない」


大旦那は、うれしそうな顔

「そやなあ、葵祭もあるし」

「ようやく、麗と葵祭が見られる」

五月

「そうですね、あちこちに、麗様の顔見せを?」


「ああ、当たり前や、それがわしと、麗の役目や」

大旦那は、力強く言い切っている。

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