第220話佐保と鎌倉香料店取材(1)

結局、麗と直美は、そのまま眠ってしまった。

交情の激しさで、二人とも体力を使い果たしていた。

それでも、翌朝、麗が風呂に入れば、直美は湯女をしながら抱きついてくる。

麗も「これも俺の役目なのか」と、懸命に直美を抱く。


朝食は、洋食系、スクランブルエッグやベーコン、ミルク、サラダ、焼き立てのパンを食べる。

麗は、身体の芯が疲れているような感じ、頭をクラクラとさせながら食べるけれど、直美はいたって上機嫌。

「しっかり食べて、また私を可愛がってください」

あまりの露骨な言い方で、どうかと思うけれど、麗は答え方がわからないので、頷くのみ。


それでも、アパートから出て、駅に向かって歩き出して、ようやく落ち着く。

「毎晩、毎朝・・・」

「いくらなんでも・・・」

「拒絶は出来ないのか」

と思うけれど、その後の直美の落胆した顔も見たくない。

「どうするべきか」と考えても、なかなか結論が出せない。


その麗が駅に着くと、高橋佐保からメッセージが入った。

「麗君、お迎えに行くよ」

「12時過ぎ、校門で、期待してる」


麗は、いつものシンプルな返事。

「はい、了解しました」

と、面白くも何ともない。


ただ、内心は面倒で仕方がない。

「鎌倉は遠いなあ、瞳さんと美里か」

「香料店の取材って言っても、何を書けばいい?」

「しかも、女性誌、女性に気に入られるような書き方を、俺が出来るのだろうか」

「つい、故事来歴を書いて、難しくなっても」



そんな面倒な気持のまま、大学の「万葉集講座」を終えて、麗が校門まで歩くと、連絡通り佐保が待っている。


佐保

「麻央も行きたいって言ったけれど、おばさんは却下って断った」

麗は答えるのが難しい。

「それは言い過ぎでは?麻央さん、素敵です」

佐保は、麗に身体を寄せる。

「だめ、それを言うと、麻央がつけあがる」

麗は、また面倒なので、答えない。


駅に着き、井の頭線に乗り込んだ時点で、佐保が麗を見た。

「ねえ、麗君、本当は、すごい高貴なお家柄?」

麗は、答えに戸惑った。


少し黙っていると、佐保がまた身体を寄せる。

「それに、うちの両親も日向先生も、麗君のご実家とご縁があって」

「その上、仕事までお世話してくれて」

「ありがたいよ、そういうの」


麗は、ようやく佐保の顔を見た。

「そのようですね、でも」


「でも?」

佐保も麗の顔を真正面で見る。


麗は素直に思うがままを言う。

「あまり・・・そういう家柄とか・・・好きでなくて」

「京都ではないし、今は東京の大学生なので」


佐保は、その麗の気持を理解した。

「そうだよね、大変だよ、その立場にならないとわからない」


そして、麗にしっかりと身体を寄せた。

「私と麻央の前だけでは、京都も、立場も忘れなさい」

「何でも聴く、言える範囲でいいけど」

「普通の麗君が好きなの」


佐保は、そのまま、麗の手を握っている。


  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る