第218話香苗と桃香の安心 直美は我慢の限界

麗と山本由紀子が帰った吉祥寺の料亭では、女将香苗と桃香がホッとした表情。


女将香苗

「何とか、粗相なく」

「京都九条家からも充分なお礼をと言われておったし」

桃香

「山本さんは、麗ちゃんの命の恩人だけやないもの」

「九条家を守り、京都を守り、それにつながる人を皆、守った」

女将香苗

「山本さん、少しは気づいたやろね」

桃香

「でも、表情にはあまり出さん」

女将香苗

「ええ女や、マジで、大人や」

桃香

「あくまでも大学職員と大学生でと、麗ちゃんに」

女将香苗

「麗ちゃんは、それで気持が軽くなる」

桃香

「江戸っ子って言っとった」

女将香苗

「まあ、京都人なら、とても出来ん反応や」

「そや・・・九条様にも連絡や」

桃香も頷いた。

「うちも蘭ちゃんに言うとく、気にしとったから」

女将香苗は含み笑い。

「美里ちゃんには?」

桃香は面倒そうな顔。

「どうせ皮肉言われるもん、知らんわ」

「蘭ちゃんに言ってもらう」



麗は、アパートに帰った。

直美が、その胸をおさえて頭を下げる。

「麗様、お疲れ様でした」

「少しどきどきして、お待ちしておりました」


麗は、「はい、無事に」とのシンプルな返事。

ただ、直美の「どきどきして」の意味は、わからない。


直美は、顔を赤らめて、京都九条家からの連絡を伝える。

「麗様、次のお世話係が決まりました」

「経理を担当されている佳子さんになります」

「公認会計士の資格をお持ちです」


麗は、少し驚いた顔。

「そうなんですか、相当な難しい試験かと」

「そういう知識を得たかったところなので、助かります」


直美は、その麗の反応が眩しいし、少し寂しさと悔しさも感じる。

何より、今日はお世話になった人とはいえ、知らない女性と会食、そして次のお世話係の話に驚いた顔で反応している。


「感じてはならんけど、嫉妬や」

「それも対象が、あちこちに」

「それに明日は明日で、幼なじみの女の子に逢われるんやろ?」


直美は、それを思っただけで、身体が熱い。

とにかく、何でもいいから、麗に触れたくなってしまった。


「麗様、お肩をお揉みしましょうか?」

必死に冷静さを装って、声をかけた。

直美は、本当は、そのまま一緒に風呂に入り、抱き合いたい。

しかし、身体が熱くなり過ぎて、素肌を合わせれば、自分自身がどうなるか、全く予想がつかない。


麗は、また意味不明な顔。

「いえ、特に肩は凝ってはいないので」

「明日の授業の予習でもしようかと」

「万葉集になるけれど」

と、そのまま、自分の部屋に向かおうとする。


直美は、我慢の限界を超えた。

「麗様、ごめんなさい・・・どうしても・・・」

そのまま、麗を後ろから抱きしめている。

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