第204話夕食はローマ風 麗は湯女を拒まないことにした。

夕食はトマトソースでしっかり煮込んだローマ風ロールキャベツと、ローマの郷土パンと言われるロゼッタ、そして冷たいレモネード。


パンに目を丸くする麗に、直美が楽しそうに説明をする。

「ローマの郷土パン、ロゼッタは、イタリア語でバラの意味のローザからになります」

「イタリアでは女性の名前で、ローザさんという名前もよくあります」

「大きさは見ての通り、直径は15cmくらい」

「放射状に割れ目をつけてあって、中身はありません」

「過去は、ロゼッタを何個食べれるか競技会というものがあったそうです」

「何でも、優勝者は一度に20個食べたとか」


麗は初耳だらけなので、目を丸くしたまま、少しちぎって口に入れる。

「さっぱりした味」

「皮がパリッと香ばしい」

「食べやすい」


直美は、麗の素直な反応がうれしい。

「パンを味わうというよりも、どちらかというとパスタなどを食べながら、皿の上に余るパスタのトマトソースなどをパンでからめとったりして食べます」

「淡白な味なので、ジャムやオリーブオイルのソースとか、パルミジャーノチーズをつけてても」

「他には、空洞の中にチーズやプロシュットとか、モルタデッラなどをはさんで、パニーニみたいにするのも」


麗も感心したのか、ロールキャベツのトマトソースをつけて口に入れる。

「わ・・・美味しい・・・」

「トマトソースも鮮烈で味が濃くて美味しくて、このパンによく合う」

「ロールキャベツも、噛みしめるほどにコクがあって美味しい」

「そのコクを、少し甘目のレモネードが爽やかに洗い流して・・・」

「また、食欲をそそります」

「大地の恵み、そのもののような新鮮な力が湧いてくるような」

麗にしては、実に珍しく誉め言葉が続く。


直美は、ますますうれしい。

「ありがとうございます、ほんと、喜んでいただいて」

「料理人冥利につきます」

「もっともっと、美味しい料理を作りたくなります」


麗は、直美の笑顔が、素直に眩しい。

「いままで、こんなに眩しい笑顔を見たことがない」

「本当に喜んでいるような笑顔だ」

「しかも、俺が直美さんに何かをして、喜ばせたわけではないのに」

「俺が面倒を見てもらって、素直に感想を言っただけだ」


それでも、麗は、慎重に戻る。

「しかし、ここで浮かれてはならない」

「これは直美さんの、あくまでもお世話係としての仕事に過ぎない」

「決して恋愛感情からの、笑顔と思ってはいけない」

「それに、そもそも、この笑顔は、俺が九条家の後継であるからが原因」

「それ以下の身分であれば、こんな地味な俺など、全く見向きもされないはず」


心が冷静に戻れば、表情も、いつもの能面に戻る。

直美が食べ終えるタイミングをはかり、麗も食事を終えた。

「美味しかった、ありがとうございます」

と、定番のお礼を言い、自分の部屋に入る。


「ベッドはともかく、お風呂は別ではいいのかも」

「何が何でも、アパートに戻れば、何でも一緒もないだろう」

「ただ・・・不用意なトラブルも起こすべきでない」

「お風呂・・・湯女もお世話係の仕事であるならば、拒んでショックを与えるのも、適切ではない」


麗が、そんなことを思っていると、洗い物が終わったのか、直美が声をかけてきた。

「麗様、お風呂の用意が出来ております」

「今、お入りになりますか?」


麗は、考えるのをやめた。

素直に風呂に入ることにした。

「そこで湯女をされて、成り行きに任せたほうが、無難なのかもしれない」


部屋を出て、そのまま脱衣室に入る。

直美も続いて入り、そのまま、麗の服を脱がせている。

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