第192話九条家は麗の不幸を思い、幸せを願う。

麗が都内に戻った当日、京都九条屋敷では、かつて恵理と結が暮らしていた別棟の解体の検討がなされている。


大旦那

「全て解体、私物は九条財団の資産に入っとる貴金属と着物は別にして、廃棄処分に」

五月

「どうせ戻って来られないでしょうし」

「結のほうが刑期が短いですけれど、いかがします?」

大旦那

「旧宮家に帰せばええ、引き取るしかないやろ」

五月

「別棟も、九条の名義、恵理も結も居候やったし」

「もともと犯罪者にかける義理はなし」


話題が変わった。

「別棟解体後は、新しい何かを?」

大旦那

「麗が嫁をもらったら今風の家でもええかな」

五月

「早いとこ、男子が欲しいですね」

大旦那

「ああ、そうやな、最低でも二人は欲しいな」

「長男を九条に、次男を香料店に」

五月

「それなら、晃さんも喜ぶやろ、何しろ可愛がった麗ちゃんの血も入る」

大旦那

「まあ、無理強いは難しいが・・・どう見る?」

五月

「はぁ・・・関係筋の娘さんですか?どれも・・・間違いはないけれど」

「麗ちゃんの性格は慎重で我慢強くて、気配りタイプ」

「芸術的な才能にあふれている」

「学識も深い、吸収力も強い」

大旦那

「学問肌のような気もするが・・・ピアノも書道も上手や」

「少々、引っ込み思案なのは、しょうがない」

「恵理と結、宗雄に苛められ過ぎた」

「少しでも目立てば、叩かれ蹴られた」

「それも、わしの見ないところで」


五月は苦し気な顔。

「えらいすみません、うちもかばいきれず」

「ほんま、見ていないところで」


茜も苦しい。

「あの壺割り事件の時やって、麗ちゃんは二人に殺されかけた」

「大旦那様が出て来てくれて・・・大事にならずに」


大旦那は苦々しい顔。

「あの壺はレプリカや」

「本物は上野の博物館にある」

「恵理も結も知っとるはず」

「それを・・・結が割っておきながら、麗のせいにして、恵理が麗の首を絞めた」


五月は下を向く。

「まさに狂気の恵理と結でした」


茜は目が潤んだ。

「麗ちゃんは京都に来るたびに、そんな酷い目に遭って」

「田舎に帰れば、宗雄から折檻を受けて」

「京都だって実は来たくなかったかもしれん」

「辛すぎる今までの人生や、笑顔が消えるのも当たり前や」


大旦那は五月と茜の手を握った。

「わしも麗には謝らなあかん、それとな、その負い目の分を越えて、大事にしたい」

「麗をこれ以上、苦しめとうない」

「麗を幸せに、九条も京も幸せにせなあかん」


五月と茜は、大旦那の手を、しっかりと握り返している。

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