第168話財団との面会 追いかけられていた麗

午後の面会は、九条家の文化財団の専務と、ここでも若い女性がついて来る。


文化財団の専務は麗に満面の笑顔で挨拶の後、様々、説明をしたり、期待を示す。

「九条家財団は主に古典文学や京文化に関する様々な文化講演会、書籍の刊行などを行っております」

「その財団の仕事に、麗様が御助力いただけるなど、本当に有難く」

「お噂では、相当な学識と文章がお上手とか、期待しております」

「大旦那様の講演原稿の作成と点検、ブログもお引き受けなされたとか、本当に楽しみです」


麗は、特に表情を変えない。

「まだ、大学入学一月、あまり期待をされても、どうかと」

「それでも、恥ずかしくない文を書きたいと思いますので、遠慮なくご指導をいただければ」

と、慎重な物言いとなる。


文化財団専務は、より具体的なことを言う。

「都内の九段下に文化財団の東京支部がございます」

「そこのスタッフにも、麗様はご自由にご相談なされ、あるいは資料の準備も、お申し付けください」


これには、麗も表情を変える。

「そうですか、九段下ですか」

「よく近くの神保町を歩くので、それは助かります」

麗としても、文化財団における大旦那の講演原稿の作成や点検、そして文化財団のブログを書く以上は、一定の協力を求めることになる。

その意味で、素直に感謝の意を伝えた。


そこまで話が進み、恒例の連れて来た女性の紹介になる。

文化財団の専務は笑顔のまま。

「私の姪になります、葵と申します」

「年は麗様と同い年」


そして葵が自己紹介、麗は驚くことになる。

「麗様、葵です」

「初めまして・・・いや、実は初めましてではありません」

その葵は、目がクリクリとした美人、かつ愛らしい童顔。


意味が不明な麗に、葵は笑いかける。

「育ったのは確かに京都です」

「それで、初めてではないのが、実は麗様と同じ大学、しかも文学部」

「ですから、麗様を大学内で何度もお見掛けしました」


これには。冷静な麗も、困惑する。

「マンモス大学でもありますし、見掛けられたと言われましても」

「そうですか、同じ文学部で」

「これは奇遇ですね」

「全くわかりませんでした」


葵は、ますます可愛らしい笑顔。

「まだ、思い出せないでしょうか?」

「源氏物語でも、万葉集でも、英語も一緒の授業で」


麗は、焦った。

これでは、授業のたびに、顔を合わせることになる。

それに自分も深く関係する九条家の財団に縁があるとなれば、全く無視も難しいことになる。

それでも麗は、すぐに落ち着きを取り戻す。

「わかりました、また授業でお逢いするようなことがありましたら」


茜が、クスクスと笑う。

「実は葵は私の従妹、麗ちゃんを追いかけて、同じ大学の同じ文学部に」

「その同じ大学でも麗ちゃんが取りそうな科目を予想して、申し込んだら、予想通りに」

「財団でも、一緒に仕事したら?」


大旦那も頷く。

「それは名案やな、話が早い」

「後は二人で打ち合わせやな」


麗は、どうにも断りづらい。

麗の大学進学情報は、おそらく「妹」蘭が茜に伝えたのだと察する。

その茜が、従妹の葵に伝えて、結果的に麗は、追いかけられた。

「これは、相当仕組まれている」と思うけれど、拒絶は諦めた。


「わかりました、その面でも、よりよい文章のために、協力し合いましょう」

麗は、それ以外の言葉が、全く浮かばなかった。

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