第60話麗の匂いと味覚が、佐保にも評価される。

佐保が紅茶とクッキーをテーブルに置いた。

紅茶カップはウェッジウッドで花柄模様、クッキーはどうやら自家製らしい。


麻央はふんわりと笑う。

「どうぞ、召し上がれ」

麗は、まだ緊張が解けない。

「はい、お手伝いなのに、申し訳ありません」


そんな麗を佐保が笑う。

「そんなこと言わないの、麻央が是非にって、連れて来られたんでしょ?」


麗は、答えようがなく。アッサムを口に含む。


その麗の口元を麻央が注目する。

「ねえ、佐保、麗君の飲み方が、なまめかしいよね」


佐保も頷く。

「そうだね、そのまま紅茶雑誌の広告に使える」

「ビジュアルもいいしね、雰囲気がある」

そして、いたずらっぽい顔をする。

「ねえ、麗君、広告会社紹介しようか、麻央の手伝いより、お金高いよ」


麗は、また困惑する。

「いえ、人前に出せるような顔ではありません」

「読者にも広告会社にもメーカーにも迷惑をかけます」

麗の「断り文句は、実になめらかになるけれど、麻央も佐保も聞いていない。


麻央

「ねえ、クッキーも食べなさい、顔が白いよ」

佐保

「メーカーを当てたら、御褒美あげる」


麗は、また困った。

しかし、答えないのも、この状態では問題があると思った。

「紅茶はアッサム」

「クッキーは、おそらく自家製、バターが少し多めで、メーカー品のように劣化がなく新鮮」

つい、思った通りを答えてしまった。

仮に間違えていても、答えないで、うろたえているよりはマシと思った。


佐保は驚いた。

「ほー・・・」

麻央

「でしょ?言った通りでしょ?」

佐保

「確かに、香りと舌には、すごいものがあるね」

麻央

「もちろん源氏もすごいよ、負けそうだもの」


麗はそれには、答えようがなく、クッキーをもう一枚食べ、

「美味しい」と言うのみ。


佐保が麗に質問。

「ねえ、今日の朝は食べたの?」


麗は、素直に首を横に振る。

「いえ、寝過ごして」

しかし、一日一食生活とは言わない。

出版社で料理関係の編集をする佐保に聞かれれば、何を言われるか、実に危険なことになる。

それよりは、今日の「お手伝いの作業予定」を聞こうと思う。

「高橋先生、ところで、これから何を?」


麻央は、佐保を見た。

「今、11時半だから、先に何か食事をして、それからかなあ」

「食事をしながら、手順を話し合いましょう」


佐保は、頷く。

「うん、簡単で食べやすいものにする」

「チーズリゾットでいいかな」


麗は、お客さんの立場、とても口出しは出来ないけれど、久々に出来立ての温かい食事を摂ることになった。



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