第42話 勇者たちとボス部屋
1層目はそれだけだった。
他に奇妙な出来事は起こらなかった。
勇者アッシュたちは、あのスライムを追って1層の隅から隅まで虱潰しに探索したのだが――――
痕跡すら発見できなかったのだ。
下の階層に降りた可能性もある。
ここで、アッシュたちは選択を迫られた。
1つは――――
ただちに撤退。ギルドへ報告をして、緊急宣言を推奨する事。
もう1つは――――
任務の続行。かつ下の階層へ向かい、例のスライムの警戒と排除を優先。
「行こう」とアッシュは短く言った。
ロザリーとシーラも勇者の判断を優先する。
そして2層目。
「なんだい? こりゃ?」と先頭に立っていたロザリーは絶句した。
「まるで城壁だ。誰かがダンジョン内で砦を築いたのか?」とアッシュ
直ぐにシーラが索敵魔法を使用する。
「酷く原始的な建物だわ。ほとんどが木製で出来ています。それに魔法的な防御が施されていません」
その結果を聞いてアッシュは少し思考してから――――
「内部に誰かいるのか?」と聞いた。
「いいえ。誰もいません。生活している様子はあるみたいですが……」
そこでロザリーが大声をだした。
「2人とも、コレを見てくれ」
ロザリーは地面を指差している。
それを凝視すると2種類の足跡が見えた。
「小さい足跡と大きな足跡か……小さいのはゴブリンのものだが、大きい方は何かわかるか?」
アッシュの質問に2人は首を横に振った。
勇者たちは、こう考えた。
ここで簡易的な砦を築き、長期的にダンジョンに潜ろうと考えた人たちがいた。
しかし、何か大きなモンスターを引き連れたゴブリンたちに攻められ、戦闘をせずに撤退したのではないか?
そう結論付けた。
もちろん、いろいろと納得できない点もあるが……
まさか、砦を築いたのがゴブリンたちだとは夢にも思わなかった。
勇者たちは3層目に降りた。
3層目は何事もなく通過。
そして、最終層――――
このダンジョンの主ボスであるオーガがいる部屋までたどり着いた。
目で突入の合図を送るアッシュ。
ロザリーとシーラは黙って頷いた。
そして、部屋の扉を開き、勇者パーティはオーガの部屋に突入した。
「なっ、なんだ! これは!」
扉を抜けたアッシュは驚きを隠せず、叫び声を上げた。
目前に広がる金色の植物。
稲穂が頭を下げるほど実っていた。
珍客の声にチラリと視線を向けたのは農作業をしていたゴブリンたちだ。
彼らは、冒険者に慣れているのか? 急に襲い掛かってこない。
それどころか、直ぐに農作業へ戻っていく。
「も、モンスターが農耕だと!」と異質な光景に愕然とするアッシュ
「頭がおかしくなりそうです」とシーラ
「コイツはヤバイ。勇者! 直ぐに火を放とう」とロザリー
今までにない混乱が勇者パーティを襲う。
ロザリーの言葉に同意したアッシュとシーラは炎系の魔法を発動しようと意識を集中しようとする。
だが――――
「おい、お前たち……それは、もしかして人の敷地内で放火しようとしているのか?」
そう言って現れたのは、この部屋の主。
つまり、ダンジョンの主であるオーガだった。
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