第26話 外来種の内面
白旗を振る外来種。
「あれは降伏……で間違いないよな?」
隣のゴブリンAに確認してみると彼は頷いた。
どうやら『こっち側』でも白旗は降伏の合図サインらしい。
しかし、なぜ? 急に降伏を?
「どうしますか? 亮さま?」とゴブリンA。
いや、彼だけではない。周囲のゴブリンたちも亮の判断を待っている。
「とりあえず……」と前置きを入れ、
「彼と話し……は無理でも意思の疎通は、試してみたい」
亮は、誰に聞かせるのでもなく、小さな声で呟いた。
しかし、それを聞こえたらしく大声が返ってきた。
「いいぞ? 俺にだって話くらいできる!」
誰の声? 信じがたい事に声の主は外来種。
咆哮と同質の大声が放たれたのだ。
「しゃ、喋れたのか? あいつ……」
亮は……いや、ゴブリンたち全員が、その事実に愕然とした。
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外来種は、白旗を横に置くとダンジョンの壁に両手つけた。
無抵抗をアピールしているつもりなのだろうが、そう簡単には信じられない。
だからと言って、そのまま放置しておくわけにはいかない。
集落の門が開いた。
亮が最初に出る。 続けて、ゴブリンたちが走り、亮を護衛するように囲む。
ゴブリンたちの武器は剣。 これは切り札として準備していた武器だ。
ダンジョン内で冒険者が捨てた剣ではあった。
しかし、それら全ては研磨されており――――新品同様とまでは言えないが――――通常のゴブリンの武装とは、まるで別次元の殺傷能力を有していた。
「全員抜刀! 構えたまま警戒!」
ゴブリンAの号令と共に、一糸乱れぬ動作で剣を抜くゴブリンたち。
そして、その剣先は外来種に向けられていた。
「降伏して、無抵抗の相手に物騒だね」
外来種は壁に手をついた状態のまま、視線だけを亮に向けた。
その瞳には――――赤く輝く瞳には、それまでの獣性も狂気も潜んでいた。
残っているの知性の光。
「なんだ、お前は? 外来種……ゴブリンが強化された姿じゃないのか?」
「あぁ、俺はゴブリンさ。ただ、強くなりたいと願った1匹のゴブリンだ」
そう言うと、外来種に変化が起きた。
彼が身に纏っていた黒い靄。 それが彼の意志に応じたかのように霧散したのだ。
黒い靄が消えて、現れた姿は――――
人間だった。
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無造作に伸ばされた髪は腰を越え、太ももまで伸びている。
筋肉質な肉体。 野生の時代、人類は現在よりも20キロ以上の筋肉を有していたと言うが……
おそらく、それ以上。
一糸纏わぬ姿で、何も隠そうとしていない。 むしろ、見ろと言わんばかりの自信を感じる。
野性味が溢れるような顔。 年齢は20代から30代の間だろうか?
どこから、どう見ても人間だ。
「お前、人間……なのか?」と亮は聞いた。
しかし、答えは――――
「人間? お前の目にはそう見えているのか?」
外来種は「何を言われているのかわからない」と言わんばかりの様子だった。
「最近、鏡は?」
亮の問いかけ。よほど、予想外の言葉だったらしく、外来種はキョトンとした顔を見せた。
「なんだ、鏡だって? 必要か? そんな物が」
「いいから、待ってろ」とゴブリンが持ってきた鏡。それを外来種に向ける。
彼はそれを見て、一瞬だけ目が見開いた。
しかし、それも一瞬だけだ。 あとは――――
笑っていた。
潜めていた狂気があふれ出て、ダムが崩壊したかのように笑った。
そのまま、大地を転がり始める。
「お、おい」と流石に警戒を強めていた護衛ゴブリンが剣を向けようとするが――――
「待ってくれ」と亮が止める。
「あー 笑った。笑った。待たせてちまってすまないな」
外来種は、地面に胡坐をかいた。
「構わないよ。いろいろ、聞きたいことはあるが――――まずは、どうして降伏を?」
亮は聞いた。
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