第13話 新たなお客さん


 冒険者ギルドの奥。テーブルが1つだけ存在している。


 そこは、ある冒険者の指定席と言われている。


 その冒険者は『長老』と言われている。


 あくまで、異名や二つ名のようなものだ。


 冒険者として薹が立つ年齢ではあるが、現役の冒険者である。


 本当に老人というわけではない。 老けて見れるが、50代よりも下だろう。




 珍しく、『長老』に若い冒険者が尋ねてきた。




 「聞きたいこと? 金は?」




 若者はコインを指で弾いた。 


 それは受け取った『長老』は「ほぉ……」と少しだけ驚きを見せる。


 無造作に投げられたコインは銅貨でも銀貨でもなく、金貨だったからだ。




 「それほどの価値がある情報……例のダンジョンの事か?」




 若者はコクリと頷いた。




 「そうだなぁ。初心者向けと言われていたダンジョンが、最難易度ダンジョンへの変化。その始まりは……」




 『長老』は瞳を閉じ、1つ1つ、自身の情報を精査していく。




 まるで王国の騎士団のように統率が取れたゴブリンの群れ。


 異常繁殖した凶暴なオークたち。




 「いろいろな変化はあったが、その始まりは――――




 スライムだ」




 「……スライム?」と若者は聞き返した。




 「あぁ、今ではグレテストスライムなんて言われているが……最初は普通のスライムだった。……そうだろ? 信じられないだろ? なんせ、俺でも信じられないのだからな」




 『長老』は笑った。


 若者は席を立つと頭を下げ礼を述べる。




 「お前さん、まさかソロであのダンジョンに挑むつもりかい?」




 若者は自身があるのだろう。ニヤリと獰猛な笑みを見せた。


 そして、若者はダンジョンに向い、1層のボスであるグレテストスライムの前に立った。




 ・・・


 ・・・・・・


 ・・・・・・・・・






 「……つっ!?」




 若者は紙一重でスライムが吐き出した酸を回避する。


 回避と同時に反撃。 長剣で刺突を試こころみる。


 それなりの名刀に、魔法的な付加を複数追加させている剣は魔剣と言ってもいい。


 しかし――――




 「弾くか! これを」




 スライムの弾力のある肉体は若者の刺突を防いだ。


 さらにバランスを崩した若者に向ってスライムの触手攻撃。


 鞭のようなスピード。 若者は盾で防ぐ。




 「なん……だ…と……?」




 しかし、高速で振るわれた触手は切れ味すら有し、鉄製の盾すら切り裂いた。


 それどころか、盾を持っていた腕から血が溢れ落ちる。




 (死ぬ? この俺が? スライム如きを相手に?)




 「馬鹿な! 馬鹿な! 馬鹿な!? 孤高の鷹と言われた俺が!」




 怒りと混乱に身を任せた特攻。 防御を捨て、ただただ前に――――


 高速の一撃に加え、体当たりのようなモーションで威力を上乗せする。




 だが、しかし――――




 若者の――――孤高の鷹と呼ばれているらしき冒険者の決死の一撃は、いとも簡単に弾かれた。




 彼に意識があったのは、そこまでだ。


 横払いのような軌道で振るわれたスライムの触手に彼は首から上を紛失していた。




 ・・・


 ・・・・・・


 ・・・・・・・・・




 ――― 5年前 ―――




 「あの……御免ください!」




 ボス部屋――――オーガさんの住処に控えめなノックと挨拶が聞こえてきた。


 それに気づいた主夫(?)、神埼亮は入り口の扉をあける。


 この行動はいささか無用心である。相手が冒険者だったら、どうするのか?


 しかし、訪問者が、極端に遠慮しがちだったため、危険な冒険者である可能性を失念してしまったのだ。


 「はい、どなたですか?」と亮は扉を開けたが、そこには誰もいなかった。




 「あれ? 誰もいない?」




 不思議そうに周囲を見渡したが人影はない。


 「おかしいな」と扉を閉めようとするが――――




 「あの、すいません! ここにいます」




 亮は、声の方向を見た。


 声は亮の頭上から――――天井から聞こえてきた。


 天井に張り付く物体があった。 そして、その物体から声がした。




 「すいません、オーガさんの家で料理……ですか? それを食べると強くなれるって噂を聞いて来たのですが……」




 その物体が天井から地面に落下した。




 「あっ、自己紹介がまだでした。このダンジョンの1層でスライムをやらせていただいているスラリンと言います」




 スラリンと名乗る物体の正体はスライムだった。




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