第2話 最初の料理はポテトチップス!?



開かれた空間。  



 テントのような物が幾つも見える。


 場所が洞窟ダンジョンでなければキャンプ地と勘違いするかもしれない。


 どうやら、この冒険者たちがダンジョン探索の拠点ベースキャンプとして使っている場所らしい。 




 「ここは安全地帯だ。魔物は出てこない」




 冒険者のリーダーはそう言った。


 見た目は30代くらいだろうか? ピンクの鎧とヒゲが特徴的。


 ……ピンクの鎧を着たおじさん。 




 「この世界や君の立場について簡単に説明したけど、詳しい話は休憩して落ち着いてからになる」




 「はい、よろしくお願いします」と亮は頭を下げた。




 「さて、賢者が食事を作っているから、ノンビリと体を休めると良い」


 「賢者さんですか?」




 リーダーが指を指す方向には、確かに女性が料理の準備を開始していた。


 汚れのない純白の服。


 薄緑のマントと木の杖の装備は外し、近くに置いている。


 こちらの視線に気づいたらしい。彼女は――――




 「ちょっと、チート使い君! こっちにおいで!」




 どうやら、自分の事を呼んでいるらしい。 しかし、チート使いと呼ばれる心当たりはない。




 ?




 頭に疑問符を浮かべていると、リーダーから「言っておいで」と言われた。




 「俺の事ですか?」 


 「そうだよ。チート使い君」


 「なんです? そのチート使いって?」




 「あれ? 聞いてないかな?」と賢者はニヤリと笑みを見せた。




 「異世界から呼び出された人間は、チートって言われる能力が付加されるんだよ。だからチートくんだよ!」


 「そう言えば、言ってましたね。 あれ? でも、さっきはチート使いくんって呼んでいた気が……」 


 「アハハハハ……君は細かいなぁ。女の子にモテないぞチートくん!」




 「はぁ……」と亮は生返事を返すしかできなかった。




 「おや? 覇気がないね。チートだよ、チート! 自分の中に秘められた規格外の能力。男なら燃えなきゃ嘘でしょ?」


 「いえ、いきなりチートと言われても実感がなくて……そう言えば、普通にチートって言葉を使ってるんですね」 


 「ん? あぁ、異世界って言っても『そちら側』は、情報規制されてるんだっけ? 普通の人は、『こっち側』の世界は知らないかもしれないけど、『こっち側』は『こっち側』で『そちら側』の情報は自由なんだ」


 「すいませんが、よくわからないのですが……」




 そちら側、こちら側と続けて言われて混乱する亮だった。




 「あれれ? 説明が難しかったかな? 要するに私たちは、パソコンもスマホも知識として知ってるって事さ」


 「俺たちの情報は、この世界にはありふれたものと言うことですか?」




 「その通りさ」と賢者は食材を1つ見せた。




 「本当は分かりやすく説明するために、コイツを見せたかったんだけどね」


 「これって……ただのジャガイモですよね?」


 「そうさ、馬鈴薯。別名ジャガイモだね」


 「それが何か?」


 「ハッハッハッ……それが? と来たかい」




 亮は「?」と疑問符。




 「そっちの世界じゃ、『こちら側』を中世ヨーロッパ風って言うんだろ?」


 「え? あぁ、もしかしたら、そう言うかもしれませんね」


 「でも、中世ヨーロッパには馬鈴薯ジャガイモ赤茄子トマトもなければ、ニンジンの色は白か紫が一般的だったのさ」


 「へぇ~ 初耳です」


 「君は説明のしがいってのがないね。要するに『こっち側』は魔法が発達してるから、見た目どおりの中世ヨーロッパ文化レベルじゃないぜ。気をつけな! って言いたかったのだけどね」




 やれやれと賢者は肩をすくめて首を振った。




 そのまま手にしたジャガイモから器用に芽を包丁で切り取ったかと思うと――――


 空中に投げた。




 「ハッ!」と気合を込めた声。




 しゅぱぱぱぱぱ……と音が聞こえてくるかのような包丁捌き。


 そのまま、賢者が手にした器に落下したと思うとジャガイモは綺麗にスライスされていた。




 「さて、コイツを暫く水で浸して、後は火の準備さ。ファイア!」




  賢者は鍋に魔法で火をつける。


  鍋の中身は……




 「おっと、ソイツは油さ。揚げ物を作るから無警戒に近づくと危ないよ」




 亮ははそれを聞いて鍋から離れる。


 いつの間にか賢者はジャガイモと水から取り出し、水分をふき取っていた。


 暫くして、串を使い油の温度を確かめながら……




 「よし、頃合さ!」




 スライスしてジャガイモを油の中に入れる。


 じゅ~と揚げ物独特の音。 ブクブクと生まれる気泡。




 そして――――




 「カラッと揚げたら取り出して……少量の塩を振ると完成さ」




 それは、キツネ色を呼ぶには、あまりにも眩しかった。


 連想イメージするのは黄金の輝き。




 「これって、もしかして……」


 「その通り、ポテトチップスって奴さ。君も不可解な世界に紛れ込んで混乱と疲労も限界ピークに達してるのではないかな?」 


 「はい、なんだか妙に疲れちゃって」


 「精神的な疲れは肉体にも影響してよくないね」




 続けて賢者は「だから、少しでも慣れ親しいものを食事前のオヤツにね」とウィンクを1つ。




 「流石の私でも本物はまだ食したことはないから、どこまでポテトチップスを再現できているかわからないからね。さぁ、できるだけ早く食べて感想を教えてくれたまえ」




 亮は手に取り、口へと運ぶ。




 汗で消費された塩分が補充されていく感覚。


 炭水化物として含まれているデンプンが体内へブドウ糖を送り込んでくれる。


 極度な疲労が強制的に回復されていくよう錯覚すら与えれる。


 いや、それ以上に―――― 




 「おいしい!」




 ジャガイモの鮮度は鋭い剣戟のような刺激。


 サクサクと口内からは食の和音ハーモニー


 確かに、これはポテトチップスだ。 ポテトチップス以上でも以下でもない。


 ならば、これは亮の感情がポテトチップスの味を底上げしているのではない?




 つまり――――


 この味の正体は――――




 癒し!?




 一時的であれ不安を取り除かれた安堵感が美味として脳が認識している。


 気がつけば、1枚1枚食べていた腕が加速。 


 同時に2枚重ねて――――否。


 3枚、4枚と重ねて口に運んでいく。 もはや、自分の意思では――――




 止められない。止まらない。




 「そんなに食べている食事が入らなくなっちゃうよ」


 「ハッ!?」 




 賢者の言葉に亮は正気を取り戻した。




 「すいません。つい美味しくて、手を伸ばすのが、止めれなくて」


 「いや、そこまで言ってくれるなら、作った甲斐があったってやつだよ」




 「よし、このまま晩御飯は馬鈴薯ジャガイモメイン料理にしよう。茹でたジャガイモは潰して、ポテトサラダと1つ。 このまま油を使ってコロッケにも挑戦をし……」




 しかし、賢者の声は途切れた。


 何かあったのか?と亮は顔を上げた。




 「あれ……急に体の様子がおかしく……困ったな。力が出てきてくれないぞ」




 そう言う賢者の口から液体が零れ落ち、一筋の線を作る。


 その線は赤かった。


 亮は何が起きたのか理解できなかった。彼女の胸には異物が生えていたのだ。




 その正体は腕。




 何者かが、背後から賢者の胸を手刀で貫いてい


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