帰還


「ダァ~~~!」


 フィオリナがドアを開けようとした瞬間、ドアが開いた。ヒカルとディアーナが戻ってきたのだ。


 ――プニョ~ン


「ん? な、なんだこの柔らかく、なんとも言えぬ素晴らしい感触のものは……」


 ヒカルの名誉ため一応言っておくと、今回の件はわざとではなかった。わざとではなかったが、ヒカルはドアを開けた瞬間、フィオリナの胸に飛び込んだのだった。

 

 ――プニプニ……サワサワ……


 そして

 

 ――ズッガ――――――――――ンッ


 フィオリナに盛大に突き飛ばされた。


「え? い、今のって……ヒカル氏?」


 その場に居た誰もが、現れたと思ったら一瞬にして視界から消えたヒカルを心配……はせず――


「ディ、ディアーナさん! ぶ、無事だったのですね!」

「んぎぎぎぎぎぃ~ちょ、ちょっとフィオリナっち。締め殺す気?」


 遅れて帰ってきたディアーナのもとに駆け寄って、再会の喜びを分かち合った。


「お、おい……オマエら、誰か忘れてないかーい?」


 ヒカルはめり込んだ壁からやっとのこと、自力で抜け出すと皆に近づいていった。が、


「誰? お前」


 振り向いたシドは冷めた視線を投げかけている。


「え? え? お、俺、俺だけど、ヒカルだけれど、ダンマスの」

「ヒカルさん……貴方はさきほど、女神フィオリナ様を冒涜しましたね」

「え?」


 ロメオまでがヒカルを責め立てるような目をしている。


「そーだそーだ~我らの女神フィオリナ様を汚したお前を俺は許さねーからな! あんなこと、あんなこと、お、俺だって……やりたいだなんて口が裂けても言えねーことしやがって!」

「えええ――っシド! わ、わざとじゃないし~濡れ衣だし~いやいや、それより、俺、今回頑張ったし~だよな? な? ディアーナ!」

「……そうだっけ?」

「いやいやいやいや、ディアーナ! 一緒に死線をくぐり抜けた仲じゃないかよ!」

「私の胸揉んだだけでしょーが」


 ――ピキィッ


 そのとき、なにかの糸が切れたような、氷が割れたような音がした。


「ちょっとヒカル氏! ディアーナさんとふたりで穴蔵にしけこんで、ナニをしていたのデスか? ことと次第によっては許しませんデスよ! ワタシというものがありながら!」

「いやいやいや~ちょっとちょっとちょっと、なんだよオマエら! す、少しはねぎらえよ! 褒めろよ! 俺を甘やかせよ! 俺は甘やかされて伸びるタイプなんだよ!」

「わ、我は、み、認めているゾ。ヒカル」


 アリアは顔を赤らめ、後ろを向くとモジモジとしていた。


「あ~アリア氏もなのデスか! 参戦する気なのですか! ゆるしませんデスよ! ヒカル氏はワタシの所有物なのデス! 何人たりとも手出しした者は我が魔術の生贄となるのデス!」

「え~~~~なんか違う! なんか違う~~~! 俺が期待してた展開と違う~~~」

「どんなことを期待してたのよ……ってだいたい分かるけどね」

「そ、それはだ。キャーヒカルさまってばマジ天才! 惚れる! 濡れるぅ! 抱いて~! って感じかな? 控えめに言って」

「やっぱね……そーいうアンタには……これだ!」


 ディアーナはスライムのテトをムギュゥっと掴むとヒカルに向かって投げつけた。


「おおーテト〜無事だったかぁー、って、うふぁっぷ」


 テトはヒカルの顔にぶつかるとべにゃんっとなって絡みついた。


「そ、その節はドーモです」

「え? テト喋れんの?」

「あ、ハイ」

「そーか、そーか、ならば話が早い。俺はお前を助けた。覚えているな?」

「ハ、ハイ」

「命がけで助けたんだ。分かっているな?」

「あ、ありがとうございました!」

「うむ。礼には及ばん。しかし〜だ。恩は返さねばならんよな?」

「は、はあ〜」

「そこで相談だ」

「ゴニョゴニョで、ゴニョゴニョだ、出来んだろ?」

「そ、それはできますけど……」

「だいたいだなあ〜あのクソ女神はお前を投げたんだぞ? ボールくらいにしか思ってねーんだぞ? いいのか? お前はそれで!」

「そ、そうですね。ハイ! やります!」

「うむ」


 ヒカルは皆から少し離れた場所でテトとコソコソと打ち合わせをした。


「ちょっとーヒカルなにやってんのよ。許したげるからコッチ来なさいよー」

「許す? 許すだと? オマエが許しても俺が許さねーんだよ! 行け! テト!」


 今度はヒカルがテトを投げた。ディアーナに向かって。


 ――ペちょん


 テトはディアーナの胸に張り付いた。すると――


「わわわわー、な、なによ! なに服溶かしてんのよ!」


 ディアーナはテトを胸から引き剥がすと狙いもせず投げ飛ばした。


 ――プニょんっ


「キャッ」


 すると今度はフィオリナの胸に乗った。フィオリナの胸の真ん中の布を溶かして行くと――


 ――ぷちンっ


 と、音を立てて、かろうじてとまっていた胸元のボタンを弾き飛ばした。


「キャーっ」


 例によって馬鹿力でテトを飛ばそうとしたが、テトのスライムボディは柔らかくて隣にいたエレナに飛んでいった。


「な、なにをするのデスか! フィオリナ氏!」


 その後、アリアも巻き込んで『キワドすぎる!? スライム合戦! ポロリもあるよ?』がはじまった。


「キャー! エレナ! 下はダメでしょう下は!」

「だってさっきアリアさんの上は見たので」

「じゃ、じゃあ〜やっぱフィオリナっちね。その胸が本物かどうか、見せなさい!」

「や、やめないで……じゃない、やめてくださーぃ」


 男たちはしばし、その女同士の戦いを眺めていたという。


「ほ、ほう。ヒカルくん。いい仕事をしますなあ」

「なになに、シドさん。あれはみんなテト氏の技ですよ。あっはっはっは……はっ」


 ――ドサッ


「お、おいヒカル! ヒカル〜」


 ヒカルはその場に倒れてしまった。



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