自転車操業


 ――パッパラー パッパッラー パッ パァア――ン


 朝のファンファーレが鳴り響く中、ヒカルは目を覚ました。


「よーし! 心機一転がんばるぞ~!」

「………」

「やだーねむいー、気持ち悪いー」


 わざとらしく元気な声をだすヒカルだったが、女神達の反応は薄い。


「っておい! ディアーナ! やるんだよ、ダンジョンに行くんだよ! ハナモグラ捕獲のバイトするんだよ!」


 ヒカルは相変わらず『盗賊の宿屋』の狭い一室に女神3人と泊まっていた。


「ち、ちきしょう。スキル開放があんなに高額だなんて……」


 初めてのスキル開放の基本料金は100万ゴルドだったから、またしても100万ゴルドの借金を背負うことになった。


「でしょー、借金作ったのはヒカルでしょー。私達関係ないしー、一人で頑張ればいいしー」

「う、運命共同体じゃねーのかよ!」

「わ、わたくしは、もちろんお供します」

「おおー、フィオリナたん! さすが俺の女神サマ!」

「ワタシも行きますデス。忘れないでくださいよ? ワタシこそがヒカルのご主人サマなのデスからね」

「フッ、じゃあそういうことでディアーナ、部屋の掃除とか頼んだぜ。あ、あと今日は酒無しな」

「ぶぅー、イジメよくない。イジメは禁止で~」

「グチグチ言ってるからだろ、ほら行くぞ!」


 4人はダンジョン30階層に来ると、すぐさま24階層を過ぎ、21階層へと向かった。しかし……


「チキショー、なんかハナモグラ、ほとんどいねーぞ」


 前ほどハナモグラの大群を発見することができなかった。


「まー、唯一のメス、ボスを倒しちゃったからね」

「あっ! そ~言うことか! チキショウ! なんてこった! 唯一の収入源を絶たれたらおしまいじゃないか!」

「マジメに働けってことじゃないの?」

「マジメって……」

「マジメにフロアーの防衛しなさいって話よ」

「マジメに働く……かあ……お? おおおおお、おおお~そうか、その手があったか」

「なによヒカル。その顔は何か良からぬことを考えてる顔ね」

「うっせーな。んなこたねーよ。フィオリナた~ん、ちょっと相談が~」

「な、なんでしょう?」


 ヒカルはフィオリナを呼ぶとディアーナが言うところの『良からぬこと』を説明した。


「ひそひそで、ごにょごにょだから、にょろにょろでしょ。あーだこーだで、なんだかんだな感じでお願い!」

「は、はあ~それくらいなら簡単ですが……」

「よっし決まり! フィオリナたんを残してひとまず26階層まで撤収するぞ!」

「え~めんどくさい~やーだー」

「うっせーなーこれが最善なの! 行くの! 金のためなら頑張るの!」

「ヒカル氏! それは酒代も含まれますデスか?」

「お、おうよ。今晩飲む酒代くらいは稼がねーとな」

「ちっ、なんだか分からないけど、そう言われたらしょうがないわね」

「じゃ、ちょっとしてからフィオリナたんお願いねー」


 そう言いながらヒカル達はダンジョンを下って行った。


「お、おう。今日は早いお帰りだなあ」

「おうボーマン。また来るからな」


 ボーマンへのあいさつもそこそこに26階層に入ると扉を固く閉めた。


 ――ズゴゴゴゴゴォオオオオ

 

 なにか水の流れる音が聞こえる。


「うひょぉおおおおおおお、な、なんだこりゃ!」


 ボーマンの叫び声が聞こえる。


「ちょ、ちょっとヒカル、アンタ何やったのよ」

「まあまて。もうすぐわかるぜ」


 やがて水の音が聞こえなくなると、ヒカルは扉を開けた。


「お、おい~お前ら! また聖水流しただろ!」


 そこには人間化したボーマンの姿があった。


「い、いやあ~、し、知らねーなあ~。ちょっと見てきてやるよ」


 ヒカルは力なく座り込むボーマンを尻目に上の階層に向かった。

 

 ――チュチュチュチュチューウ


「おほっ、作戦成功!」


 そこにはまるまる太ったハナモグラの大群が居た。そう、これがヒカルの作戦だった。

 21階層から下に向けフィオリナに聖竜を放ってもらう。当然、水は下へ下へと流れるので各階層に聖水が流れ込むことになる。ハナモグラは水が好物だし、前の経験上聖水を浴びれば増えるだろう。そう踏んでの作戦だった。はたして作戦は成功した。しかし、ひとつだけヒカルの計算外のことがあった。


 ――キョエェェェェェエエエエッ


 ハナモグラのボスも大復活した、ということだった。


「ボーマンよろしく~」

「やややや、おいおいおい! フザケルナ! フザケルナ! ひゃっ助けて~助けてくれーい」


 ヒカル達は2~300匹ほどハナモグラを捕まえると26階層から下へと逃げ込んだ。その後、ボーマンは何度かハナモグラのボスに襲われライフを減らしたという。

 

 そして――29階層も終わりの頃、30階層に近づくと


「え? だ、誰かいるのか?」


 30階層のフロアから人の気配がした。




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