ホリデーマーケット


「おいヒカル! 市場マーケットへ行こうぜ」

「ん? エマか……どーした? 夜這いか?」

「朝だよ朝! いつまで寝てるんだよ」

「え? ファンファーレ聞こえないじゃねーか」


 朝、恒例のようにエマがやって来たが、今日は少し様子がおかしいようだ。

 

「なに言ってんだい。今日は安息日だろ?」

「安息日?」

「ダンジョンはお休みってこと! だから冒険もお休み! どーせ暇なんだろ? だから行こうぜ市場へ」

「あ、ああ……」


 ハナモグラ討伐により、小金を得たヒカルは借金を返済、少し余裕があることをエマは知っていたのだった。

 

「しっかし、女神どもはネボスケだなあ~寝相もスゲーし。ただしフィオリナたんを除く! うひょ~触りて~、あの胸に飛び込みてぇ~だがしかし、生存確率はバンジージャンプの比じゃねーもんなあ~」


 女神たちは例によってグッスリと眠っている。どんな割り振りで寝ても、結局ディアーナはエレナとフィオリナは一人で寝ている。


「なにをブツブツ言ってるんだい? さ、支度しろよ、行くぞ」

「あ、ああ」


 ヒカルにしても、日中はダンジョン、夜は宿屋か飯屋でどんちゃん騒ぎの毎日だったから、町を見て回った記憶がなかった。そこでエマの誘いに付き合うことにした。


「しかしエマ。オマエ彼氏とかイネーの? やっぱ胸がねーからか?」


 ――シュッ


「アンタ死ぬ気? 誰がモテナイって言ったの?」


 エマはすかさず短刀をヒカルの首筋にあて、ピタピタと叩いた。


「い、いやあ~言ってないですぅー。エマならさぞかしイケメンの彼氏が居るんじゃないかなあ~って思っただけですぅ~」

「ふん! いないよ。ボクはね、義賊を目指してるんだから」


゛いや、それは関係ないだろ? っていうか、そ~いう態度だから彼氏ができねーんじゃねーの?゛


 と思ったヒカルだったが、そのことは言わず……


「顔はまぁまぁカワイイのに」


 ってとこだけ口に出ていた。


「な、なに? ボクのこと……ね、狙ってるの?」


 エマは怒って駆け出した。


「お、おい! 待てよー! こんなところ置いてかれたら迷子になるだろ!」


 エマの後を追いかけるとやがて安息日市場ホリデーマーケットについた。


「お〜ここはなんだ? 祭りか?」


 安息日市場ホリデーマーケットは、中央広場から大通りにかけて大小様々な店が所狭しと軒を連ね、流れ行く人々で地面が見えないほどの混雑だった。ところどころで音楽を奏でる者、大道芸をする者がいて、ちょっとした祭りのように見える。


「毎週、安息日になると開くマーケットさ。まあ、この日ばかりは皆大騒ぎで祭りみたいっちゃそ~だけどな」

「ま、毎週なのか?」

「ああ。この町はさ、ダンジョンとともにある。平日は大半が戦いに明け暮れている。だから、安息日くらいはハメを外すのさ」

「ふむぅー、毎晩ハメを外してるヤツもいるような気がするが……」

「はは、あんなもん騒ぎのうちに入らないさ」

「なるほど……で? 今日は何をしに来たんだ?」

「あ、ああ……まあボスからの買い出しの依頼と……ヒカルもなにか装備が見つかるかもしれないって思ってな」

「ほほう〜確かに呪いの装備だけだとヤバイしな」

「あ、ああ。アレは済まなかった。そ、そのお祓いもできるところがあるかもしれない」


 エマは呪いのローブを渡したことを気にしていたのだった。市場には、占い師や、祓い師など、様々な職業の店が並ぶ。中にはその呪いを祓える者も居るだろうと言うのもヒカルを市場に誘った理由のひとつだった。


「ま、お祓いってんだと少々値が張るからな」

「あ、ああー、エマ、気にしてくれていたのか」

「そ、そんなんじゃない! ケド、変なもの売りつけられたとか言いふらされるのがイヤなだけだ」

「ふーんー。でもさ、大丈夫だぜ? 気にすんなよ。俺は大丈夫だからよ」


 死んでも生き返るから。とは言えないが、呪いそのものを大して重く考えていなかったヒカルの笑顔は素のままだった。


「ヒカル……そ、そんな顔で笑うなよ」

「ん? なんだ? 惚れちまうのか?」


 いつになく沈んだ顔をしたエマを見て、ヒカルは冗談を言ったつもりだった。しかし、エマの頬は赤く染まった。


「ザケンナ! 刺すぞ!」

「はは、やっぱエマはその方が合ってんな」

「ハイハイ。カワイく無いって言いたいんだろ?」

「いやいやエマはカワイイよ」

「な、なんだってんだよ、さっきから!」

「ははは、怒った顔もカワイイぜ!」

「もう! 知らないからな!」


 エマは怒ってドコかへ消えてしまった。


「あ、エマ! ちゃー、ちょっとカラカイ過ぎたかな? ま、なんとかなんだろ」


 ヒカルは仕方なくあてもなく歩きだした。



  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る